今年、世界の銀行にとって最大の課題となるのは、地政学的な要因、関税、経済の不確実性、サイバーセキュリティリスクに起因する変動性である──昨年末から年初にかけて、筆者を含む多くのアナリストはこのように予測していた。残念ながら、米国とイスラエルがイラン攻撃に踏み切って以来、これらのリスクは著しく高まり、銀行に悪影響を及ぼしている。
イラン情勢の急激な悪化を受け、世界の2大原油指標である米WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物と欧州の北海ブレント先物は50%以上急騰した。ガソリン、ジェット燃料、船舶用燃料、化学製品、農薬の生産には広く原油が使われているため、これらすべての価格が上昇し、食料品も値上がりしている。軍事作戦が続く限り、インフレの影響は世界中の金融機関や企業に広がり、とりわけ消費者の財布を直撃するだろう。
中央銀行
どこの国でも銀行セクターは中央銀行の金融政策に極めて敏感だ。現在、世界中の中央銀行がイラン攻撃に起因するインフレ圧力に苦慮している。オーストラリア準備銀行は3月17日に政策金利の引き上げを決定したが、カナダ銀行、イングランド銀行、インドネシア銀行、欧州中央銀行(ECB)、米連邦準備制度理事会(FRB)など大半の中銀は金利を据え置く判断を下した。ブラジル中銀とフィリピン中銀は利下げを行った。
さらに大きな圧力にさらされているのが、湾岸地域の中銀だ。職員の命が脅かされているだけでなく、国内の銀行の安定を保つために打てる限りのあらゆる手を打たねばならない状況にある。たとえば、アラブ首長国連邦(UAE)中央銀行は原油価格の高騰と経済の不確実性の高まりを受け、銀行セクターの安定性強化のためいくつかの資本・流動性措置を取らざるを得なかった。
銀行株の投資家は憂慮している
主要な銀行株価指数には、こうした厳しい状況下で投資家が銀行の業績を非常に懸念していることが表れている。イラン攻撃開始以降、英国、欧州、米国の銀行株価指数は9~13%の範囲で下落した。米銀行株のこれほどの不振は、2023年3月のシリコンバレー銀行(SBV)の破綻とクレディ・スイスの経営危機以来のことだ。また、英・欧・米の3つの指数がすべて同時に今回と同程度に下落したのは、2011年のユーロ圏債務危機以来となる。



