世界で最も重要な石油輸送の要衝の再開に向けた「ホルムズ海峡の戦い」の可能性が増す中、各国政府やエネルギー市場は、ある難題への答えを模索している。ホルムズ海峡が数週間、あるいは数カ月間封鎖されたままになったらどうなるのか?
イランとオマーンに挟まれた同海峡は、世界のエネルギー供給で最も重要な役割を担っている。世界全体の石油供給量の約5分の1が同海峡を通過しているほか、膨大な量の天然ガスや石油化学原料も輸送されている。具体的には、通常、日量約2000万バレルの原油と石油換算で同200万バレル相当の液化天然ガス(LNG)が同海峡を通過している。この流れが長期間途絶えたら、世界はどのようにこれを補うのだろうか?
厳しい現実として、少なくとも短期的には代替は不可能だ。現実的な戦略は、可能な限り多くの穴をふさぎ、追加供給を確保しながら、ホルムズ海峡の再開に向けた取り組みが進む間、時間を稼ぐことしかない。
楽観的な想定を前提にしたとしても、その数字は悲観的だ。平常時に同海峡を通過するエネルギー資源の石油換算量は日量約2200万バレルに上るが、国際エネルギー機関(IEA)の戦略石油備蓄からの放出により、日量600万~700万バレルが一時的に追加される可能性がある。ペルシャ湾周辺のパイプラインにより、日量300万~400万バレルの供給増も見込まれる。
だが、こうした利用可能なあらゆる手段を同時に講じたとしても、世界では依然として日量1000万バレルを超える供給不足が生じる恐れがある。この数字は、世界のエネルギー市場が現在直面している課題の大きさを示している。
緊急時の対策
各国政府がどのような対応を取る可能性があるのかを把握するには、世界のエネルギーシステムの物理的な仕組みを概観することが参考になる。供給不足を補うための手段は複数あるが、それぞれに大きな制約がある。
戦略石油備蓄の放出
最も手っ取り早い方法は、緊急用の戦略石油備蓄を放出することだ。IEA加盟国は先週、戦略石油備蓄から60日間にわたり、過去最大となる4億バレルの石油を協調して放出すると表明した。これにより、一時的ではあるものの、国際市場に日量約670万バレルが追加されることになる。
これは史上最大規模の措置だが、ホルムズ海峡で失われた輸送量の約3分の1しか補えない。さらに、現在容量の約58%しか利用されていない米国の戦略石油備蓄は、物流上の課題を抱えている。たとえ最大で日量440万バレルの引き出し量であっても、その原油が国内のパイプライン網を通ってメキシコ湾岸の輸出ターミナルに到達するまでには2週間近くを要する。戦略備蓄の放出は時間を稼ぐことを目的としており、世界で最も重要な石油供給ルートであるホルムズ海峡の封鎖を長期的に代替するものではない。
サウジアラビアの東西パイプライン
最も重要な非予備的手段は、サウジアラビアに存在する。同国は通称「ペトロライン」と呼ばれる東西パイプラインを通じて、ペルシャ湾から国内を横断し、紅海のヤンブー港まで原油を輸送している。これにより、同国はホルムズ海峡を迂回(うかい)しながら原油を輸出することができる。
同パイプラインの輸送能力は日量約700万バレルだ。だが、その処理能力の一部は既に活用されており、港湾の物流事情により、追加で輸出できる原油の量には制限がある。実際のところ、危機発生時にサウジアラビアが同パイプラインを通じて追加供給できる原油の量は、日量約200万~300万バレル程度だと見積もられている。



