昨年12月中旬、中国の家庭料理のレシピを紹介する2冊の本が出版された。「ガチ中華」を代表する味坊集団の梁宝璋さんの『味坊の味 リョウさんが伝えたい中国の家庭料理(以下「味坊の味」、左右社刊)』と、福建省出身のりんさんの『毎日食べたい中国の家ごはん 日本人もハマる! 本場の味(以下「中国の家ごはん」)』(KADOKAWA刊)である。
筆者にとって旧知の人物だった中国出身の2人が、同じ時期に、同じテーマのレシピ本を上梓すると知って驚かされたのだが、その共時性が面白いと思った。
では、いまなぜ、中国家庭料理なのか。しかも、いわゆるガチ中華のレシピを紹介する本がどういう経緯で世に出ることになったのか。さらに言えば、後述するが、世代の異なるふたりが伝えたい味の世界観が似ているところも興味深かった。
味坊の料理を最適化したレシピ設計
まず「味坊の味」の内容から紹介しよう。「味坊」については、本コラムで何度も紹介してきたように、多くの日本人に支持される梁さんの出身地の中国東北地方と羊肉料理で知られるガチ中華の店である。
味坊で提供している個性豊かな58のレシピを、この本で監修した今井真実さんは「味坊の味は梁さんのお母さんの味。誰もが安らぎを感じ、国の境を超える懐かしさを覚える味です。そして、毎日食べる家庭料理としても、決して飽きることがない」と話す。
とはいえ、味坊の料理はレストランで提供しているものだ。そこで、レシピの提供は梁さんに任せ、今井さんはそれを家庭向けに調整するという役割を担った。
大量調理、強火、複数人で担うのが前提のレストランの工程を、少量、家庭用コンロ、1人でつくることを前提に、味坊の料理を最適化したレシピ設計と執筆を行ったという。
「味坊の味」に掲載されている「本書の使い方」のなかで、「中華鍋は要りません」「特別な食材は要りません」という2つのポイントを挙げているのもそれだ。
同書の楽しさは、写真付きのキャラとなった梁さんと今井さんが料理ごとに吹き出しでアドバイスをコメントしているのだが、ふたりの掛け合いがいい。単なるレシピ集を超えた文化的な読み物として、味坊の料理が生まれた背景や調味料に関するコラムを多数盛り込んでいるところも、読み応えがある。
担当編集者の三上真由さんによると、「ガチ中華のブームのなかで味坊の存在感は大きく、コアなファンは不定期に開催される味坊のイベントに参加し、梁さんに会いに行くほど。その人望がすごい。梁さんが掲げる新しい食文化を創造したいという志を軸に、今井さんが高度な中華や羊料理を家庭向けに再設計することで、ファンと一般読者の双方に届く『読むレシピ本』を目指した」のだそうだ。
ファンもよく知る社長の林強さんや料理長の明信江さんまで登場して、お店を訪ねたときと同じように、味坊ワールドが各ページからにぎやかにこだましてくるような本である。



