実は、今回のコラムの構成を考えていた2週間ほど前、知り合いの中国出身の女性インフルエンサーのヤンチャンこと、楊小溪さんから『身近な食材で本場の味を作る お家で絶品中華』(KADOKAWA刊)という、これまた中国家庭料理の本を2月に上梓したというメールが届いた。
四川省出身の彼女は「14年前に来日した際、日本の回鍋肉を食べて、これは別物だ! と衝撃を受けたのがこの本を書く原点となった」と語る。日本の町中華として定着した回鍋肉は、もともと四川料理であり、現地の味つけとはまったく違うことは知られている。
「いかに日本のスーパーで買える食材と、家庭用のフライパンで、現地の味を再現するか」。その試行錯誤の末、生まれたのが彼女のレシピ本だというのである。
彼女にこのような想い、すなわち中国由来の料理が日本でローカライズしてしまったことへの違和感があるのは無理もない。多くの中国出身の留学生たちもみなそう思っているのも事実だ。
その違和感をどうやって相互理解につなげるのか。前述の2人とは観点は違うが、それがヤンチャンたち中国人インフルエンサーに求められる役割だろう。
いま、時を同じくして3冊の中国家庭料理のレシピ本が現れたことは、筆者の目からみると、時代の静かな変化を感じさせる。昨年のマーラータンのブームもそうだが、ガチ中華が日本の食のシーンに少しずつ浸透し、ローカライズしながらも、これまでなかった新たな食文化を生み出していくさまが見て取れるからだ。
最後に、今月下旬に刊行される筆者の新刊『ガチ中華移民 日本で増殖する「本場中華料理」の謎』(太田出版刊)について紹介させていただきたい。この本は、これまでウェブメディアの「Forbes JAPAN」に5年以上かけて書いてきた筆者のコラムを中心にまとめたものだ。
ガチ中華という新たなグルメシーンを1つの社会現象として捉え、その出現の経緯やグローバルかつ歴史的な背景、今後の展望について執筆したものだ。ぜひこちらも読んでいただければと思う。


