親しみや安堵を与えてくれるガチ中華
それにしても、世代の異なる中国出身の2人が、ともに母の味に思いを込めていること。そして、多くの日本人にまっすぐ向き合い、その味を誠実に伝えようとする姿には、心動かされるものがある。
筆者はこれまで梁さんが子どもの頃、つまり来日する以前(当時はまだ中国が改革開放に至る前で、経済的に貧しい時代だった)、母親がつくってくれた素朴な料理の味について懐かしそうに話すのを何度か聞く機会があった。
「『ガチ中華』を代表する味坊・梁さんが愛されキャラとなった秘密」 という記事を当コラムで以前書いたことがあるが、残留孤児だった彼の母は、多くの孤児たちが日本への帰国を急ぐなか、自分の育ての親を看取るまでは中国で一緒に暮らそうと考えるような人だった。
また、りんさんは7歳のときに両親に連れられて来日している。当初は日本語が話せず苦労したという。両親が共働きだったので、1人で食事を摂ることが多かった経験から、料理をつくることは自然に自己表現の手段となったのだそうだ。
筆者はガチ中華オーナーの世代別の特徴を、来日時期の異なる第1世代から第3世代までに分類し、4つめのカテゴリーとして第1世代の子供たちである「2世」が現れていると指摘したことがある。
りんさんの話を聞いて、この「2世」世代の独自のアイデンティティを少しだけ理解することができた気がした。成長の過程でさまざまな葛藤を抱えてきたであろう彼女は、日本社会に溶け込みながら自らのルーツを表現する手段の1つとして、中国の家庭料理の魅力を伝えることを始めたのである。
これまで筆者は多種多様なガチ中華の世界を紹介してきたが、いまの時代、多くの日本人が求めているのは、派手な宴会料理や「ギラギラ系」と呼ばれるような「攻め」のグルメばかりではない。
むしろこの2冊のレシピ本のような、親しみや安堵を与えてくれるガチ中華も求められているのではないだろうか。誰でも自宅で手軽に、これまで誰も知らなかった中国の家庭料理をつくるというひそかな愉しみが、人の心を惹きつけるのだと思う。


