Forbes JAPAN 2026年3月号は「20 HOT CREATORS 進化するクリエイター経済」特集。日本の基幹産業として位置づけられるコンテンツ産業は、2033年までに海外売上20兆円規模を目指す成長領域だ。こうした状況下で存在感を高めているのが、IPを起点に新たな需要を生み出し、市場を広げていくクリエイターたちだ。作品や世界観を軸に市場を拡張していく、いま注目のクリエイター20人を紹介する。そのうちのひとりが、プランナーでクリエイティブディレクターの市川晴華だ。
街の小さなパン屋を舞台に、焼かれる前のクリームパンやドーナツたちが泥棒に立ち向かう。花澤香菜、山田孝之ら豪華声優陣を起用した短編アニメーション「パンの赤ちゃん」は、2024年12月の公開直後からXを中心に拡散され、大きな反響を呼んだ。約4分という短い尺のなかで予測不能な展開が続き、YouTubeでは32万回再生(26年1月4日現在)を超えた。
さらに、25年4月に登場した約1分のショート動画シリーズ「ギャルネコ」は、ギャルに憧れる猫の「ツナ」と「ギャル」によるゆるいやりとりが癖になるとTikTokを中心に人気を博し、TikTokの総視聴数は1400万回を超えている。
これらのオリジナルIPを手がけているのが、プランナーでクリエイティブディレクターの市川晴華である。中京テレビのCM「ヨンと鳴く犬」など、市川が手がけた作品はSNSを中心に話題を呼んできた。広告とIP、領域は異なるが、市川のなかでは地続きだ。広告制作の現場で磨かれてきたのは、「どうすれば多くの人に見てもらえるか」という思考。冒頭1秒で引きをつくり、予測を裏切り、最後まで見せきる。その設計は、「パンの赤ちゃん」における予想外な展開の連続や有名声優の起用、大人も楽しめるアニメとしてあえて不穏な効果音を使用し、エンディング曲はR&B調にするといった演出にも反映されている。
一方で、CMと決定的に異なるのが、オリジナルIPには「与えられた課題」が存在しない点だ。就職活動では約50社の選考に落ち、広告代理店へ転職するもクリエイティブ部門に配属できず、プランナーへの道は決して平坦ではなかった市川。そうした経験のなかで、「弱いものが強いものに勝つ〈ジャイアントキリング〉」の物語に、何度も救われてきた。そのテーマを自らの手で世の中に届けたいと考え、制作したのが「パンの赤ちゃん」だった。
「『次がある』という喜びが、生きる力になる。誰かにとって、ちょっとだけ生きがいになるものをつくりたい」。市川が見据えているのは、キャラクターが日常のなかで生き続けること。だからこそ、市川のIPづくりは生み出すだけでなく「届け方」まで含めて設計されている。動画でキャラクターを知り、更新を待ち、グッズを身につけ、それを街で目にする人が増える。商品化やイベントによってキャラクターとの接点が増え、そうした循環が生まれたとき、IPは一過性のヒットではなく、市場として成立していく。
それを体現しようと、「見たことのないものをかけ合わせる」という発想から生みだした「ギャルネコ」は、Instagram、YouTube、TikTokといった複数のプラットフォームで反応を確かめながらエピソードを更新。独特な言葉遣いやキャラクター同士の距離感によって築かれた世界観で視聴者の心を掴み、26年1月にはグッズ販売などを行うポップアップイベントの開催を予定している。
そうした一つひとつは感覚的な表現ではなく、広がりと定着までを見据える、広告プランナーとして培ってきた思考の表れだ。その視点こそが、市川がキャラクターIP市場に投じている実践である。



