アート・バーゼル・カタールの芸術監督ワエル・シャウキーによる特別プロジェクトは、会場となったM7とドーハ・デザイン・ディストリクトを起点にムシェイレブ地区へ、さらにドーハの街へと広がった。
オープニングを飾り、フェア期間中イスラム美術館(MIA)で展開されたインスタレーションは、フェアを都市の文化インフラと接続し、都市空間そのものを拡張する試みとして来場者の記憶に残るものだった。さらにカタール国立博物館、マトハフ:アラブ近代美術館、ファイヤーステーションといった文化施設でもフェアと並行して多彩なプログラムが展開され、コレクターや来訪者たちにドーハの文化的厚みを伝えていた。
中東のアートシーンに新たな章
パブリックアート、美術館、博物館、アーティスト・イン・レジデンスなどの長年の施策を通じて文化を蓄積してきたカタールに、世界トップクラスのアートフェアが加わったことで、制作、収蔵、展示、教育、市場が循環するアートのエコシステムが整った。
2026年11月には新たな国際美術展「ルバイヤ・カタール」もスタートする。先頃、そのメイン展覧会のテーマが「Unruly Waters(乱暴な水)」であると発表された。「水」という比喩を通してカタールの地政学的役割を探り、世界史、生態系、交流ネットワークを結び付ける展示になるという。
2028年にはヴェネチア・ビエンナーレにカタールのパヴィリオンが加わる。国別パビリオンが並ぶ歴史的会場に恒久的な拠点を構えることは、カタールが国際美術の舞台において継続的な存在感を示すことを意味する。
さらに2030年にはアート・ミル美術館の開館が控える。かつての製粉工場を改修し、国際的な近現代美術コレクションを紹介する大規模美術館として構想されたこの施設は、カタールが描く文化国家の未来を象徴する存在となりそうだ。
すでに商業的なアートハブとして確立しているドバイは、民間主導のギャラリーシーンと流動性の高いコレクター層を背景に、地域の市場を牽引している。一方、アブダビでは長年開催されてきた「アート・アブダビ」を後継する形で、2026年11月に「フリーズ・アブダビ」が初開催される予定だ。ドーハ、ドバイ、アブダビという三つの都市が、それぞれ異なるモデルで中東のアートシーンを形成しつつある。
しかし初開催のフェアの余韻が残るなか、2月末にはアメリカとイスラエルによるイラン攻撃が始まり、中東の緊張は一気に高まった。ドバイで20年にわたって開催されてきたアートフェア「ART DUBAI」は、4月の開催予定を協議しているという。この地域は常に地政学的な不確実性と隣り合わせでもある。
それでもなお、文化には人々や世界を結び直す力がある。各都市で力強く展開される試みの未来を見守りたい。


