文化戦略を設計するアル=マヤッサ王女
カタールの文化政策を語るうえで欠かせない存在が、カタール博物館会長を務めるシェイカ・アル=マヤッサ・ビント・ハマド・ビン・ハリーファ・アール・サーニだ。2000年代後半以降、彼女は国家規模の文化戦略を主導し、イスラム美術館、カタール国立博物館、マトハフ:アラブ近代美術館といった施設の拡充を進めると同時に、世界的な現代美術コレクションの形成にも力を注いできた。
その影響力は国際的にも高く評価されている。英国『ArtReview』が発表する「Power 100」では長年上位に名を連ね、2025年版では2位にランクイン。文化政策を通じて国家ブランドを形成する稀有なリーダーとして、世界のアート界で最も影響力のある人物の一人に数えられる。
アート・バーゼル・カタールの誘致も彼女の主導によるもので、2月4日に開催されたトークイベントにも登壇。スイス出身のコレクター/文化起業家マヤ・ホフマンとともに、アートへの持続的コミットメントと長期的なビジョンについて語った。
同じく中東の王族出身で「Power 100」に名を連ねる人物に、UAEのシャルジャ美術財団理事長フール・アル・カシミ(2025年版では3位、24年版で1位)がいる。
シャルジャ・ビエンナーレを通じてグローバル・サウスの作家を結び、国際展の芸術監督を歴任(国際芸術祭「あいち2025」の芸術監督も務めた)するなど、キュレーターとして制度を更新してきたアル・カシミに対し、アル=マヤッサはの役割は文化インフラを設計する立場にある。公共空間への大型インスタレーションの導入、都市再開発と文化施設の統合、教育プログラムの拡充など、アートを「社会資本」として位置づける国家政策を一貫して推進してきた。
ムシェイレブ地区の再開発も、その延長線上にある。文化、建築、生活空間を統合する新しい都市モデルとして設計されたこの地区では、M7やドーハ・デザイン・ディストリクトを舞台に、2024年からデザイン・ビエンナーレ「デザイン・ドーハ」が開催されている。これを主導するのもアル=マヤッサだ。
「デザイン・ドーハ」が掲げるMENASA地域の創造性に光を当てるという理念は、アート・バーゼル・カタールの方向性とも重なる。フェアの誘致は単発のイベントではなく、長年築いてきた文化インフラに市場を接続する試みだった。


