メガギャラリー側の視点も興味深い。2月2日付のニューヨーク・タイムズ紙は、オーナーギャラリストのデヴィッド・ツヴィルナーのコメントを紹介している。
「中東は私たちにとって常に盲点でした。この地域に住む人々と出会うことが私たちの願いです。ドバイはすぐ隣にあり、国際的な富裕層が集まる都市です。この地域には素晴らしいコレクターが何人かいます。もっと増えてくれることを願っています」
ツヴィルナーは本フェアで、マルレーネ・デュマの「Against the Wall」シリーズを展示した。パレスチナとイスラエルを隔てる壁の前を歩く少女を描いた《風景の中の人物》の前で、来場者が足を止める姿が印象に残った。市場への期待と同時に、地域の歴史的文脈を正面から扱う姿勢も示されていた。
日本のVIPにとってのアート・バーゼル・カタールは?
プレビュー会場には日本からのVIPの姿もあった。アート・バーゼルの日本のVIPリプレゼンタティブとして、世界各地のフェアでVIPと行動を共にする武田菜種氏によれば、今回のフェアは他都市とは明らかに異なる空気を持っていたという。
「フェア全体の規模が他都市の巨大フェアほどではなく、会場構成も相まって作品と向き合う時間が確保されていました。若手や新規のコレクターにとっても、圧倒されることなく鑑賞できる環境が整っていたと感じます」
個展形式という構造も、その印象を後押ししたのだろう。ブースを回遊するというより、一つの展覧会と対峙する感覚に近い。巨大フェアでは得がたい“余白”がカタールにはあった。
アートフェアに馴染みのない読者にとって、「VIP」という言葉は高額購入者の代名詞のように響くかもしれない。しかし武田氏によれば、「コレクター、プライベート美術館オーナー、パブリック美術館関係者(館長、学芸員)、財団、インディペンデントキュレーター、アドバイザー、コンサルタント、ビエンナーレのディレクター、キュレーター、文化機関のリーダー、企業の文化支援担当者などを含む」文化支援に携わる面々をさす。
作品の取得だけでなく、展覧会の企画や寄贈、国際的なネットワークの形成を通じて文化の流通を支える場。その意味で今回のフェアは、日本のVIPにとってもMENA地域のアートと具体的に出会う機会となった。


