起業は特別な人だけの選択肢ではなくなりつつある。講演会で学生から投げかけられた質問に、起業をめぐる時代の変化を感じた。マクアケ創業者による連載第61回。
大変光栄なことに、母校である慶應義塾大学の授業で講演する機会があった。東証の寄付講座として商学部向けに行われた授業で、私の学生時代や社会人になってからの仕事、さらにマクアケ創業からの軌跡などについて、学部生300人以上に向けて今後のキャリアのヒントになればとお話しさせていただいた。ありがたいことに居眠りする人もなく、みな驚くほど真剣に聞いてくれたので、少しでもお土産になる話ができればと背筋が伸びる思いだった。
学生たちからどのような質問が来るのかを楽しみにしていたのだが、質問してくれた人たちの共通点に時代の進化を感じた。それは、自ら起業している人、将来起業を考えている人、知人が起業した会社を手伝っている人、起業していたが失敗して会社を閉じた人など、驚くほど「起業」にかかわっている、ないし強く興味をもっている人たちばかりだったのだ。もちろん、講演者である私自身が起業をしているし、Makuakeという新規事業への挑戦を応援する会社を経営している人間でもあるので、より興味をもちやすかったことは理解できる。しかし、私が大学生だった20年以上前は、起業はごく一部の人の選択肢だったし、表立って「将来起業するつもりです」などとほかの学部生の前でマイクを使って発信するなど考えられなかった。
質問した学生のなかに、すでに一社を起業し、うまくいかずに会社を閉じた経験をもつ学生がいた。彼がほかの学生たちとは違う「目」をしていたのが印象に残っている。質問は、「会社の閉じどきは、どのようなタイミングが良いか」というものだった。「事業のやめどき」ではなく、「会社の閉じどき」である。彼の目や声のトーンには、お金を扱い、仲間を抱え、顧客の信用に応えながら、頑張り踏ん張って、それでも思うようにいかない現実と向き合ってきた人だけがもつ、学生離れした雰囲気があった。真剣勝負に炙られる経験をした人がもつものだ。私は彼の質問に明確な正解を示すことはできなかったが、彼にとっては、そのタイミングで会社を閉じた判断こそが、次につながる最高の選択だったのだと思う。再起は十分に可能な状態のようで、大きく成長したうえで次にまた挑戦できる自分を信じてほしいという言葉を送った。
その後、共有してもらった学生たちからの感想でも、彼が成功ではなく失敗をさらけ出したことを評価する声が多かった。そうした失敗に向き合う姿勢も、次の良い仲間を見つけるための大きな成長になっているのかもしれない。
学生時代の挑戦が人を育てる
日本酒文化を広める会社を経営している学生もいた。日本酒好きの私としてはうれしく、頼もしい起業家だと思った。自分の情熱を燃やせる領域に真っ向勝負で挑んでいて、強いエネルギーを感じた。正面突破が立派な策になることもある。学生がもつエネルギーと向こう見ずな勢いが、閉塞感のある業界に革新を起こしたりするものだ。
今の私がひとつ後悔しているのは、学生のときに起業を経験してこなかったことである。今なら、お金がなくても起業のかたちなどいくらでもあることは知っている。しかし、そんなことも思い付かず、自分には遠くて怖いものだと思っていた。当時よりもインターネットやAIが発展した今であれば、さらに手段も増えているだろう。講演を終えてあらためて思ったのは、学生時代こそが、最も大胆に挑戦できる時間だということだ。学生時代の起業によって経験が得られ、自分自身の大きな成長にもつながる。そう信じて挑戦する若者が増えれば、日本のイノベーションの土壌は、豊かになるだろう。
なかやま・りょうたろう◎マクアケ代表取締役社長。サイバーエージェントを経て2013年にマクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」をリリース。19年12月東証マザーズに上場した。



