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2026.03.09 11:00

世界最大級の製薬会社イーライ・リリー、人気のGLP-1製剤の生産は「AIでこう増やした」

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創薬をめぐる誇大宣伝はいったん脇に置こう。世界最大の製薬会社が、現在AIで実際に成果を上げているのは、本稿で挙げるやり方だ。

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AIが創薬にもたらす可能性には大きな期待が集まってきた。だが、世界最大の製薬会社であるEli Lilly(イーライ・リリー)で最初に大きな成果が出たのは、意外にも創薬ではなく、人気のGLP-1製剤であるZepbound(ゼップバウンド、減量向け)とMounjaro(マンジャロ、糖尿病向け)の製造工程だった。

リリーの最高情報・デジタル責任者、ディオゴ・ラウは「AIがなければ、昨年はあれだけの量を作れませんでした」とForbesに語った。具体的な数字は明かさなかったが、彼は「決算に重要な影響が出る程度の規模でした」と述べた。

これはリリーにとって大きな意味を持つ。これらの注射薬への需要は極めて強く、同社は十分な量を作るのに苦労してきたからだ。2022年後半から2024年にかけて、米食品医薬品局(FDA)はこれらの薬が供給不足にあると判断した。そのため、これらの薬は、特許で保護されているにもかかわらず、一定の条件のもとで薬剤の独自調合を行う専門業者(コンパウンダー)が製造することが認められていた。

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アップルで10年働いた後、2021年にリリーへ入社し、CEOのデビッド・リックスに直接報告する立場にあるラウは、こう話す。「供給不足リストに載らないようにしたいというのが、私たちの最大の関心事でした。私たちは、すでに最適化した工程を持っていると思っていました。それでも供給不足のリスクがあったため、もうこれ以上よくならないと思っていた工程を改めて見直したのです」。

GLP-1製剤の生産を増やすために、リリーが使ったのはデジタルツインと呼ばれる技術だった。これは工場を仮想空間に再現したもので、リアルタイムのデータを使って現実の工場で何が起きているかを正確に映し出し、実際に導入する前にデジタル上で改善策を試せるようにする。デジタルツインは、製造の最適化に使う例が増えている。

リリーはAIとデジタルツインを使って製造工程の効率を高め、そうでなければ不可能だった量まで薬の生産を増やすことができた。そのために同社は、機械から材料、工程まで、工場のあらゆる要素をモデル化した。デジタルツイン上でさまざまな構成を試し、最善の選択肢を導き出したのである。「話がうますぎると思いましたが、現実の工場の動きもデジタルツインと一致していました」とラウは語る。

さらに、注入器の不具合も、これまでより正確に見つけられるようになったという。たとえば、オートインジェクター(自動注入器)1本ごとに、数百ミリ秒刻みでさまざまな角度から数十枚の写真を撮り、破損がないかを確認できる。

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翻訳=酒匂寛

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