AIを創薬に使う話ほど華やかではない。だが、ゼップバウンドとマンジャロは昨年、リリーの売上高650億ドル(約10兆2600億円)の半分超を占めた。マンジャロの売上高は230億ドル(約3兆6300億円)に達し、2025年に計上した115億ドル(約1兆8100億円)の2倍となった。一方、ゼップバウンドの売上高は前年の49億ドル(約7732億円)から135億ドル(約2兆1300億円)へ急増した。この成長が追い風となり、リリーは昨年後半、ヘルスケア企業として初めて時価総額1兆ドル(約158兆円)に達した(現在はそれをやや下回る水準で取引されている)。
リリーは今も創薬にAIを使っているが、着想から承認までに長い時間がかかるため、こちらははるかに長期戦である。1月には、リリーとエヌビディアが、強力なスーパーコンピューターを活用して製薬業界の課題に取り組むイノベーションラボに10億ドル(約1578億円)を投じると発表した。同じ月、リリーは、評価額13億ドル(約2051億円)で2億3000万ドル(約363億円)を調達した注目のAIスタートアップ、Chai Discovery(チャイ・ディスカバリー)とも提携した。生物学的製剤の発見を早める可能性があるAIモデルを構築するためだ。生物学的製剤は、実験室で合成する化学物質とは違い、たんぱく質や細胞などの天然由来の材料から作る薬である。
創薬で成果が出るのは、なお先のことだ。「そうした薬が市場に出るのは2030年代半ば、あるいは後半になるでしょう。将来に対する大きな賭けです」とラウはいう。
そしてラウは続けた、「『今後どれほど早く薬を作れるようになるのか。6カ月や18カ月で新薬を世に出せるようになるのか』と尋ねられます。それこそが最も過大に喧伝されている点であり、業界におけるAI自体の信頼を損ないかねない重大なリスクをはらんでいます。そうした期待を持つべきではないのです」。


