キャリア・教育

2026.03.20 15:15

元総理通訳に聞いた要人の「癖英語対策」と歴史の目撃、「通訳はファシリテート」の意味

黒川公晴氏(Learner's Learner代表、ミネルバ認定講師、元外務省所属外交官)

通訳も「ファシリテート」だ

━━通訳官同士での情報共有もありましたか。

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黒川:先輩方からはとくに失敗談をよく聞きました。「ニュースで最近よく出てくるこの単語を調べておいたほうがいいよ」とか「このあいだ、あの単語が出てこなくて困った」とか、かなり綿密に共有されていました。活躍されている先輩の仕事を見て参考にすることもありますし、「どういう場面でつまずきやすいか」を意識しながら対策していました。

━━手法としては、同時通訳ではなく逐次通訳でしたか。

黒川:私がいたときは、基本的に、われわれ外務省の職員は逐次通訳でした。G7サミットのように大人数の国際会議では外務省員ではなく外部の同時通訳を起用することもあります。逐次通訳は外交の内容に精通している外務省員が責任を持ってやる、というのが本来のかたちなんだと思います。

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━━それだけの準備をして臨むなかで、歴史的な瞬間に立ち会っていると感じた経験はありますか。

黒川:通訳としてよりは、外務省員としての本業で、歴史的な意義を感じる瞬間には何度か立ち会いました。

たとえば、沖縄の米軍基地の返還交渉に携わっていたことがありました。沖縄の北部、「やんばるの森」のあたりに「北部訓練場」というジャングルの訓練場があります。その広大な土地の返還交渉をしていて、それが妥結した。最後に菅官房長官(当時)とアメリカ側の代表との間で返還式が開かれましたが、そのときは、「これは本当に歴史的な瞬間だな」と思いましたね。

━━通訳が入ることで、対話がよい方向に変わることはあるのでしょうか。

黒川:通訳はあくまでも黒子なので、入ることで対話の内容そのものや流れが好転するということはありません。しかしいくつかいい面を挙げるとすると、一つは発言の整理です。口語でしかもライブですから、辻褄が合っていなかったり、もごもご言ったり、文脈を往来しつつ話すことがありますよね。それを意味が伝わるように整理して伝えることで、対話相手の理解を助けることはできます。

もう一つは、通訳を挟むことで、ワンテンポ「間」ができること。相手の発言を私が日本語に訳している間、考える時間が生まれるので、会話がスムーズに進みやすくなり、答えに窮する確率が減じられます。

それから意訳にならない程度の表現─たとえば、若干の感情を乗せる余地はあるかもしれません。棒読みのように、淡々とおっしゃる方の言葉でも、訳す際に少し感情を乗せるということですね。これは通訳を担当する人によってもやり方が異なって、そのままモノトーンに訳す人もいれば、感情を乗せて訳す人もいます。私自身は、感情を乗せるスタイルの先輩の影響を大きく受けていました。

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文=加藤智朗 取材・構成=石井節子 撮影=曽川拓哉

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