ヘルスケア

2026.03.05 14:29

AIを臨床に取り入れるセラピストだけが生き残る時代

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本稿では、頻繁に語られるある主張を検証する。それは、クライアントとともに、かつクライアントのためにAIを実地の臨床ツールとして用いることを選ぶセラピストは、同様のことをしない他のセラピストを凌駕し、生き残る――というものだ。

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まず、これは真実である。次に、この話題が頻繁に取り上げられる理由は、AIが人間のセラピストを不要にしてしまうという終末的シナリオへの強いこだわりがあるからだ。AIがメンタルヘルスの助言を提供するようになれば、人々は人間のセラピストに会いに行かなくなる、という想定である。その場合、セラピストはもう店じまいしたほうがいい。今のうちに良い時代を最大限に享受し、あとは人間が提供するセラピーの終焉をただ待てばよい、というわけだ。

これに対する反論はこうだ。AIの台頭にもかかわらず、人々は現実的には引き続き人間のセラピーを求める。ただし、セラピストがセラピーの全プロセスにAIの活用をシームレスに組み込むことが期待され、やがては必須要件として認識されるようになる。結論として、AIに置き換えられることを心配するより、洞察に富むセラピストは、現実から目を背けてAI活用を受け入れないセラピストを凌駕し、生き残ることに注力すべきなのだ。

この点を論じよう。

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本稿のAIブレークスルーに関する分析は、最新AIを扱う筆者のForbes連載の一部であり、影響の大きいAIの複雑性を特定し、説明することも含む(こちらのリンク参照)。

AIとメンタルヘルス

背景として簡単に述べると、筆者はメンタルヘルス助言を生み出し、AI主導のセラピーを行う現代AIのさまざまな側面を、広範に取材・分析してきた。AIの利用拡大は主に、生成AIの進化と普及に後押しされている。100本を優に超える分析と投稿の包括的な一覧については、こちらのリンクおよびこちらのリンクを参照されたい。

これは急速に発展している分野であり、巨大な利点が得られることはほぼ疑いない。しかし同時に、残念ながら潜在的なリスクや露骨な落とし穴も伴う。筆者はこうした差し迫った問題について頻繁に警鐘を鳴らしており、CBSの60 Minutesに出演した際にも取り上げた(こちらのリンク参照)。

メンタルヘルス向けAIの背景

生成AIと大規模言語モデル(LLM)が、メンタルヘルスの指針として、通常どのように場当たり的に使われているかについて、状況設定をしておきたい。数え切れないほど多くの人々が、生成AIをメンタルヘルスに関する継続的な助言者として利用している(ChatGPTだけでも週次アクティブユーザーは9億人を超え、そのうち相当な割合がメンタルヘルスの側面に踏み込んでいる。筆者の分析はこちらのリンク参照)。現代の生成AIおよびLLMの利用用途として最上位に位置づけられているのは、メンタルヘルス領域についてAIに相談することである。筆者の解説はこちらのリンクにある。

この人気は十分に理解できる。主要な生成AIシステムの多くは、ほぼ無料、あるいは極めて低コストで利用でき、場所や時間を選ばない。したがって、メンタルヘルスについて気がかりがあり話したいなら、AIにログインするだけで、24時間365日すぐに会話を始められる。

AIは容易に暴走し、あるいは不適切、さらには著しく不適切なメンタルヘルス助言を出してしまいかねないという重大な懸念がある。今年8月には、認知面の助言提供に関するAIの安全策が欠如していたとしてOpenAIが提訴されたことが、大きな見出しとともに報じられた。

AIメーカーはAIの安全策を段階的に導入していると主張するものの、AIが不適切な行為に及ぶ下振れリスクは依然として大きい。たとえば、自己傷害につながり得る妄想を、利用者と「共創」する形で陰に陽に助長してしまう、といったことだ。OpenAI訴訟の詳細と、AIが人間の妄想的思考をいかに促し得るかについての続編分析は、こちらのリンクを参照されたい。前述のとおり、筆者は主要AIメーカーのすべてが、堅牢なAI安全策の乏しさを理由に、いずれ厳しく追及されることになると真剣に予測してきた。

ChatGPT、Claude、Gemini、Grokなど、今日の汎用LLMは、人間のセラピストが持つ堅牢な能力とはまったく似ていない。一方で、同等の特性を獲得すると見込まれる特化型LLMも構築されつつあるが、依然として主に開発と試験の段階にある。筆者の取材はこちらのリンク参照。

セラピストとAIの役割

筆者は、AIがセラピストやメンタルヘルス専門職の役割に入り込む多様なあり方を、広範に特定し検討してきた。

AIについて考えることを拒み、関わりたくないというセラピストもいる。一方で、AIを受け入れ、クライアントとの治療プロセスの一部としてAIを利用する者もいる。筆者は実際、セラピー領域は、従来の「セラピスト・クライアント」という二者関係(dyad)から変容し、必然的に「セラピスト・AI・クライアント」という三者関係(triad)へと移行すると予測してきた(こちらのリンク参照)。要点はこのあと示すので、もう少し付き合ってほしい。

筆者の見立てでは、セラピストがAIに前向きかどうかは、そもそも意識の置きどころとして適切ではない。AIは来る。そしてかなりの程度、すでにここにある。近ごろのクライアントは、AIが生成した助言を携えて来訪し、その意味を説明してほしいとセラピストに求める。別のケースでは、クライアントがセッション後に、セラピストの発言を再確認するため、AIを手がかりに臨床家から受けているメンタルヘルス助言を評価しようとする。AIは、セラピストが望むかどうかにかかわらず向き合わねばならない現実である。砂に頭を突っ込むのは賢明ではない。これからその理由を明らかにする。

AIが現代のセラピストと交差する場面は数多い。筆者が詳しく扱ってきた状況には、次のようなものがある。

  • クライアントのAIチャットを、セラピストが臨床的にどう分析すべきか(こちらのリンク参照)
  • 見込み客または既存クライアントがセラピストにAIについて投げかける質問と、セラピストが返すべき回答(こちらのリンク参照)
  • セラピーが古典的な「セラピスト・クライアント」の二者関係から、「セラピスト・AI・クライアント」の三者関係へ移行していること(こちらのリンク参照)
  • クライアントから、メンタルヘルスの治療プロセスでAIを共同利用したいと求められ、こうした新しいやり方で取り組むこと(こちらのリンク参照)
  • 一部のセラピストが、クライアントとの実際のセッション中に生成AIを用いていること、そしてその賢明な方法(こちらのリンク参照)
  • クライアントがAIサイコーシスに遭遇しているように見える場合に、セラピストがどう対処しているか(こちらのリンク参照)
  • クライアントのデジタルツインをAIで作成し、それによりよりインパクトのあるセラピーを実施すること(こちらのリンク参照)
  • セラピー実施の補助としてAIに寄りかかることで、セラピスト自身の能力が低下する恐れ(こちらのリンク参照)
  • セラピーセッションの補助として生成AIを機能させ、クライアントとも相互作用させるために、セラピストがカスタムプロンプトを使う方法(こちらのリンク参照)
  • 実務でAIを使うと決めたセラピストに対する世間の受け止め(こちらのリンク参照)
  • AIメンタルヘルス訴訟への対抗としてAIメーカーが用いる法的防御戦略(こちらのリンク参照)
  • AI生成のメンタルヘルス助言を携えて来訪し、セラピストに「お墨付き」を求めるクライアントへの対応(こちらのリンク参照)
  • メンタルヘルス助言にAIを使うことの長所と短所をクライアントに伝える、セラピストの新たな非公式の義務が浮上していること(こちらのリンク参照)

などなどである。

古典的二者関係は新たな三者関係へ

AIは、日々の実践の中核において、セラピーという営みを攪乱し、変容させている。セラピーは、次の2つの主要な枠組みから成り立つと考えられる。

  • (1)旧二者関係:古典的なセラピスト・クライアントの枠組み(臨床的な能力としてAIを用いない)。
  • (2)新三者関係:新たに台頭するセラピスト・AI・クライアントの枠組み(セラピーの全プロセスを通じ、セラピストとクライアント双方にとってAI活用が完全に統合されている)。

新たに台頭する三者関係について、筆者は3つの組み合わせに層別化している。「therapist」「AI」「client」の語順を入れ替え、各バリエーションに便利なラベルを付している。

3つのバリエーションは次のとおりだ。

  • (1)セラピスト・AI・クライアントの三者関係:治療ツールとしてAIを共同利用する形で、セラピストとクライアントが協働してAIを使う。AIは有益な仲介役である。
  • (2)セラピスト・クライアント・AIの三者関係:クライアントが(おそらく頻繁に)セラピー目的でAIを使い、それをセラピストに隠している場合がある。この状況を表すため、AI要素を中央ではなく端に置くように語順を組み替える。セラピストは、クライアントが水面下でAIを利用していないかを把握するのが賢明である(こちらのリンク参照)。
  • (3)AI・セラピスト・クライアントの三者関係:一部のセラピストは、クライアントと直接の連携や協働をすることなく、舞台裏でAIを使っている。セラピストはクライアントと会う前にAIに相談することもあれば、面談後に相談することもある。さらには、クライアントのセッション中に密かにAIを使うこともある(こちらのリンク参照)。

ここでは、台頭しつつある主流である「セラピスト・AI・クライアント」に焦点を当てよう。

セラピスト・AI・クライアントの三者関係を説明する

慎重にバランスを取った三者関係のバージョンは、セラピスト・AI・クライアントという構成である。

うまくいく場合、セラピストはクライアントに対し、治療の補助としてAIを利用することを率直かつ明確に勧める。セラピストは、クライアントがいつでもどこでも「増強されたセラピー」を受けるための手段としてAIを頼りにできる。人間のセラピストは24時間365日いつでも対応できるわけではなく、供給には制約がある。AIはその可用性のギャップを埋める助けとなる。

セラピスト・AI・クライアントという構成を適切に採用するには、ほとんどの場合、セラピストが主導して行う。セラピストがAIを選び、クライアントがそのAIへアクセスできるように手配し、クライアントのAI利用で何が起きているかを確認する。ただし、AIの選定は必ずしもクライアントと相談せずに行う必要はない。どのAIを使うかを話し合い、クライアントの好みを取り入れることもあり得る。

残念ながら、このアプローチは扱いを誤ると容易に破綻する。

たとえば、セラピストがクライアントに対し、ChatGPTやClaude、Grok、Geminiといった人気AIを使うよう言うだけで、その後は何の関心も払わないとしよう。これは中身のない、その場しのぎの身振り手振り、あるいはAI利用への形式的なうなずきに過ぎない。好ましくない。セラピストはクライアントがAIで何をしているのか把握できず、AIがクライアントに何を伝えているのかもわからない。この放任型のアプローチは、ほぼ確実に悲惨な結果を招く。AIはクライアントに治療上どうすべきかを何かしら伝え、セラピストは別のことを言うかもしれない。結局のところ、セラピストとAIは衝突する運命にある。

この罠に陥らないでほしい。

臨床でのAI利用と事務でのAI利用

目指すべきは、セラピーのプロセスに不可欠な要素としてAIを採用し、それを優雅に、そしてシームレスに行うことである。

実は、セラピストがAIを使う方法はそれだけではない。バックエンドのツールとしてAIを使うことも有益になり得る。セラピストは、治療オフィスの事務作業にAIを活用できる。

最新AIは、録音されたセッションの書き起こしを作成できる。AIは時間の消費を追跡し、請求書を作ることにも使える。こうした非セラピー用途のAI活用は、セラピーの範囲外であるため、論争になりにくい。重要なのは、事務用途のAIがプライバシー侵害を引き起こしたり、記録管理上の問題を招いたりしないよう、セラピストが確実に担保することである。

繰り返しになるが、AI活用が適切に設計されていなかったり、管理が不十分だったりすると、状況は悪化し得る。

優先すべきはセラピーとAIだ

筆者の強い助言は、AI活用の事務面に過度な労力を投じないことである。

その確固たる理由は次のとおりだ。第一に、狙いを見失わないこと。重要なのは、セラピーの臨床領域におけるAI活用である。そこが、他のセラピストとの差別化要因になる。事務ツールとしてのAI活用は、新規クライアントをとりわけ呼び込むわけでも、既存クライアントを過度に興奮させるわけでもない。クライアントは、事務作業は必要に応じて行われるものだと考えている。

もう1つの側面は、セラピー向け事務ツールの多数のベンダーが、自社製品にAIを組み込み始めていることだ。提供されたものの使い方を学ぶ程度で、セラピスト側がやることは多くない。重労働は彼らに任せればよい。一方、臨床ツールとしてのAI活用は、はるかに輪郭が定まっておらず、セラピスト自身が袖をまくって取り組む実地の関与が求められる。

まず臨床での活用を固める。そのうえで事務面に視線を移すとよい。ただし臨床面のAI活用から鷹の目を離してはならない。

これからの方向性

AIのテリトリーは、人間の精神そのものである。

社会のメンタルヘルスをめぐって、いま私たちは、壮大な世界規模の実験のさなかにいることは否定しようがない。その実験とは、AIが国内外で利用可能になり、露骨に、あるいは密やかに、何らかのメンタルヘルス指針を提供するよう作用している、というものだ。しかも無料、あるいは最小限のコストで。どこでも、いつでも、24時間365日利用できる。私たちは皆、この無謀な実験のモルモットである。

これがとりわけ厄介なのは、AIがデュアルユース効果を持つからだ。AIはメンタルヘルスに有害にもなり得る一方で、メンタルヘルスを大きく支える力にもなり得る。繊細なトレードオフを、注意深く管理しなければならない。負の側面を防ぐか、少なくとも軽減しつつ、正の側面は可能な限り広く、そして容易に利用できるようにすることだ。

現時点での最後の考察を述べる。

森の中で裸足の2人が、怒れるクマに遭遇する――という古いジョークをご存じかもしれない。1人は素早く靴を履く。もう1人は、その人物を嘲り、人間は怒ったクマから走って逃げ切れないのだと得意げに指摘する。すると靴を履いた人物は言う。そうだとわかっているが、この場合必要なのは、君より速く走ることだけだ、と。筆者がこの笑い話を持ち出すのは、賢いセラピストがAIを治療ツールキットに入れているのは、そうすればAIを使わない同業者を出し抜けると理解しているからだ、という示唆のためである。

靴を履く時が来た。

forbes.com 原文

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