CEOs

2026.03.05 09:12

創業者が陥る「自分でやった方が早い」の罠──スケールを阻む最大の強み

AdobeStock

AdobeStock

筆者が会っていたのは、見事な組織を築き上げた創業者だった。資金調達と事業収益はいずれも伸び、パートナーや資金提供者は満足しており、プログラムは業界最高水準だった。しかしチームは苦戦しており、離職率は上昇し、創業者は長時間労働を続ける一方、スタッフは彼女にしか下せない意思決定を待ち続けていた。

advertisement

「委任しなければならないのは分かっている」と彼女は筆者に言った。「でも、やろうとするたびに何かがうまくいかない。自分でやったほうが早い」

これが創業者のパラドックスだ。何かを築くことを可能にした能力が、それをスケールさせる際の障壁になる。品質と一貫性を担保してきた統制が、ボトルネックへと変わる。

1,000人以上の経営幹部を紹介し、数百人の創業者と仕事をしてきた経験から、筆者はこう学んだ。これは性格の欠陥でも、マネジメントスキルの不足でもない。ここまで到達させたものが、将来の目標達成には通用しないかもしれない、ということだ。

advertisement

会社を築いた「超能力」

組織の初期段階では、創業者による統制が不可欠である。仕組みがないときに一貫性を保ち、プロセスがないときに品質を守り、チームが小さいときに足並みを揃える。

このハンズオンのアプローチにより、ビジョンへの忠実性を保証できる。あらゆるやり取りが自分の基準を反映し、あらゆるプログラム上の意思決定が戦略に沿い、あらゆるメンバーが期待値を理解する。なぜなら、あなたがコーチングしているからだ。この強い統制はマイクロマネジメントではない。創業期のリーダーシップである。適切で、必要で、効果的だ。ところが、ある瞬間からそうではなくなる。

統制が制約に変わるとき

変化は徐々に起こり、そして一気に訪れる。チームは8人から20人、50人へと増える。すべての会議に参加することはもはやできない。あなたの判断待ちで意思決定が積み上がる。かつては自ら関与することで担保していた品質が、すべてに手を入れられなくなった結果、揺らぎ始める。

あなたはこれまでうまくいってきたやり方で対応する。より深く関与し、より多くの意思決定をレビューし、より強い統制を維持しようとする。しかし今や、意思決定の数が多すぎる。人が多すぎる。動く要素が多すぎる。

その間に、採用した優秀なリーダーたちは去り始める。ミッションを信じていないからでも、あなたを尊敬していないからでもない。実際にはリードすることを許されていないからだ。あなたがそのために採用した役割は、書面上は存在しても、現場では機能していない。

アキレス腱が露わになる

委任すると、当初はうまくいかないことが多いのも事実である。あなたなら違う判断を下したであろう意思決定が行われる。あなたなら気づけたはずのかたちで品質が落ちる。懸命に築いてきた一貫性にひびが入る。

そこであなたは意思決定を自分に引き戻し、結果として問題を強化してしまう。チームはリスクを取らなくなる。「正しい答えは何か」ではなく、「創業者は何を望むか」に最適化していく。

あなたはこれまで以上に働く一方で、リーダーシップチームは衰えていく。統制し、実行する能力——あなた最大の強み——が、アキレス腱になってしまったのだ。なぜなら、規模が大きくなった段階であなたの仕事は、もはや統制ではない。権限を与え、委任し、他者を通じて効果的に成果を出すことである。

これは本質的に異なるスキルセットであり、求められる直感も根本的に違う。成功した統制を何年も積み重ねて培った直感は、一夜にして変わるものではない。

転換点

この移行をうまく乗り越える創業者は、重要なメンタルシフトを起こす。委任を「統制の放棄」と捉えるのをやめ、「影響力をスケールさせること」と捉え直すのだ。

筆者が支援したあるCEOは、こう表現した。「四半期ごとに主要な意思決定をすべて自分でレビューしていたら、影響を及ぼせる重要な結果はせいぜい20件だった。でも、そうした意思決定を適切に下せるリーダーシップチームをつくれば、四半期に200件の結果に影響を与えられる。自分の統制が、実はインパクトを制限していた」

この捉え直しが重要なのは、基準を下げたり、凡庸さを受け入れたりする話ではないからである。あなたがすべての意思決定に個人的に関与しなくても、基準を維持し、さらには上回ることさえできる組織能力を構築することが目的だ。

ただし、これが機能するのは、次の3つの根本的な変化を実行した場合に限られる。

第一に、採用の仕方を変えなければならない。

あなたの指示がなければ動けない人を採るのをやめる。あなたが判断を完全に信頼でき、あなたとは違うやり方で意思決定しても安心できる人を採ることだ。誤った意思決定ではなく、異なる意思決定である。両者の違いを見分けられないなら、効果的に委任することはできない。

第二に、あなたの判断を「仕組み」に落とし込むシステムを構築しなければならない。

あなたの基準や戦略的思考を、頭の中だけに置いておくことはできない。チームが自律的に良い意思決定を下せるよう、フレームワーク、原則、プロセスとして存在させる必要がある。これは官僚主義を生むこととは違う。むしろ、あなたの戦略的思考をスケールさせることだ。

第三に、権限委譲とは不完全さを受け入れることだと認めなければならない。

チームは失敗する。その失敗の一部は、あなたなら防げたものでもある。しかし、その失敗を防ぐために支払う代償——あらゆる意思決定のボトルネックであり続けること——は、失敗そのもののコストよりも大きい。

「これからの会社」にふさわしい採用へ

最も難しいのは、いま必要なリーダーシップチームが、3年前に必要だったチームとは違うと認識することである。あなたの密な指示の下で力を発揮してきた幹部は、いま求められる自律性の行使に苦戦するかもしれない。ハンズオンのオペレーターとして見事に実行してきた人材が、次のフェーズに必要な戦略的リーダーであるとは限らない。

必要なのは、あなたがいなくても構築し、率いることができる幹部である。実行力だけではなく、判断力をもたらす人材だ。あなたが逐一翻訳しなくても、あなたのビジョンを各チームの行動へと落とし込める人材である。

究極の創業者テスト

他者を通じてスケールすることを学ぶのは、究極の創業者テストである。守り抜いてきた基準を他者に託し、個人的な関与に代わるシステムを構築することが求められる。

すべてを統制する能力が、あなたの会社を築いた。統制を弱める覚悟が、それをスケールさせる。問うべきなのは、自分でやればもっと上手くできるかどうかではない。それをうまく、継続的に、そして大規模に実行できるチームとシステムをつくれるかどうかだ。それは超能力を手放すことではない。進化させることなのだ。

forbes.com 原文

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事