サイエンス

2026.03.05 10:30

ヒトの遺伝子の2割は150万年前の「幻の人類」に由来する

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ゴースト集団のチンギス・ハン効果

1年前まで研究者でさえ知らなかった「ゴースト」集団が、いったいどのようにして、現代の私たちのゲノムのかなりの割合を占めるに至ったのだろうか。そんな疑問を抱く人も多いかもしれない。その答えは、集団遺伝学の分野でときに「チンギス・ハン効果」と呼ばれる現象にある。

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13世紀に広大な帝国を築いたチンギス・ハンの直接の子孫(Y染色体を持つ男性)は、全世界の男性のうち、200人に1人に上ると推定されている。影響の大きいなんらかの出来事があった際に、ある一つの系統が大きく成功し、そのDNAが遺伝子プールにあふれると、そうした現象が起こり得る。

進化上の融合も、同じようにはたらく。30万年前に大昔の二系統が再融合したときには、「ゴースト」のDNAが、生存上の利点を提供したのかもしれない。

いわゆるチンギス・ハン効果に関する最近の研究で述べられているように、生殖の動向は、集団の遺伝的様相をがらりと変えることがある。ある系統が急速に拡大すると、そのDNAは単に存続するだけでなく、基礎になる場合もある。

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このケースでは、ゴースト集団のおかげで、すでにさまざまな環境で数十万年にわたる時の試練に耐えてきたバリアント(多様体)が導入された可能性がある。そのバリアントは、熱帯特有の病原体、食物の変動、あるいは不安定な気候に対するレジリエンスを授けたのかもしれない。この融合は、対等なものが徐々に混ざりあうかたちではなく、大きく分岐していた遺伝物質が、現生人類の祖先に組み込まれるかたちでの融合だったのだろう。

簡単に言えば、ゴースト系統の形質のなかでも、特に時の試練に耐えたものが持続したということだ。現代の私たちが持つ遺伝子のうちおよそ20%は、その大昔の祖先から受け継いでいる。姿を消した集団が、はっきり異なるグループとして、今もなお私たちの生物学的特性を内側からかたちづくっているのだ。

ゴーストとは何者か?

この点は重要なのだが、こうした遺伝的な「幻」やゴースト集団の存在を科学者が垣間見るのは、今回が初めてではない。『Genome Research』で発表された2016年の研究では、現代アフリカ西部の集団(ヨルバ人やメンデ人など)が持つDNAの2~19%は、既知の人類集団のいずれとも一致しないことがわかった。

同様に、『Nature』に掲載された2023年の研究では、ホモ・サピエンスの起源をめぐる「弱く構造化した幹モデル(weakly structured stem model)」が提唱されている。具体的に言うと、このモデルによれば、およそ100万年前には初期人類の複数集団がアフリカ全域で暮らし、それぞれが砂漠や山脈で隔てられていたという。それぞれの集団は、独自の形質を発達させるくらいには異なっていたが、互いの道が交わったときに「再融合」できるくらいには似通っていた。

つまりそうした集団は、分化の程度はごく小さかったものの、遺伝研究に見られる多型パターンの一部を説明できるくらいには分化していた、ということだ。だが、そうしたゴーストは何者なのか、という疑問は積年の謎だ。化石が見つかっていないため、その存在は、現生人類のDNAから推測するしかない。

中期更新世の化石(ホモ・エレクトスまたはホモ・ハイデルベルゲンシスに似た種)が、現生人類の20%に寄与するゴーストの正体の可能性があるとも主張されている。この発見をきっかけに、20%の遺伝子配列の「持ち主」が見つかるのではないかとの期待から、アフリカとユーラシアで的を絞った大規模な化石探しが巻き起こっている。

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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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