経営・戦略

2026.03.25 14:15

米国でも新聞はオールド・メディアか? AI駆使の記事と「彼ら」が手放したもの

AdobeStock

「AI駆使による記事作成」の先にあるもの

ポストと言えば、米ジャーナリズムの世界でタイムズと並び、数々の功績を成し遂げ、読者のみならず国内外からも信頼を寄せられてきた歴史がある。その対象が時の大統領であれ、政府首脳であれ、財界の大物であれ、威光をかざす権力者の前でも怯むことなく、相手の懐に飛び込み、真相に近づくために辛抱強く緻密な取材活動を続け、スクープを含め注目に値する記事を書き、そして掲載する。その結果、優秀なジャーナリストを育て、幾度も記事がピュリッツァー賞などの栄誉に輝いた。ウォーターゲイト事件をすっぱ抜き、ニクソン大統領を辞任に追い込んだ『大統領の陰謀』や、泥沼化するヴェトナムでの戦況をめぐる機密書類を日の元に晒した『ペンタゴン・ペーパーズ』など、ハリウッドで映画化されるほどの功績を誇ってきた。

advertisement

そんな社の功績に不可欠だった人材を、ポストは手放した。今後は経営の合理化の名の下で、AIを駆使した記事作成を行い、読者の関心重視の誌面構成を根付かせる方針と言われる。知識も経験も豊富で、各方面に情報源の人脈を張りめぐらし、読者が知る手立てのないスクープを‘足で稼いできた’ジャーナリストに見切りをつけ、アマゾンが得意とするネット戦略に基づいて得た情報を元に記事を作成し、掲載を続けていく。となれば、記事の内容はもとより、メディアとしてのイメージも自ずと変わっていくのは避けられないはずだ。

問題は、こうした新たな方向性による編集方針が読者獲得、信頼の復活につながるかどうかである。自分たちが知り得ない、社会の状況の裏側や深い洞察をこれまで期待してきた、旧来のポストの読者を納得させ、関心を持たせ、読み戻せる誌面づくりができるのか。デジタル・テクノロジーのさらなる導入が、従来とは異なるポストのイメージを打ち立て、新しい読者からの信頼を勝ち取れるのか。

これらの質問への回答は近い将来明らかにされるだろう。その結果は、ワシントン・ポストのみならず、ジャーナリズム全体の在り方や未来にも関わってくるように思える。

advertisement

新元良一(にいもと・りょういち)◎1959年神戸生まれ。作家。1984年にNYCへ移住、22年間暮らした後に帰国し、2006年、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)の大学教員に着任。2016年に再び活動拠点をNYCへと移した。主な著作に『あの空を探して』(文藝春秋)。ブルックリン在住。インスタグラム:riyoniimoto.tracks

文=新元良一 編集=石井節子

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事