中国ニッチIP展開、虞臻が明かす「大規模不要で高利益 」の仕組み

東宝の新規キャラクターIP「Mofu Mofu Music Caravan」。成長初期段階から海外市場検証を目的に韓国でポップアップを実施した。

東宝の新規キャラクターIP「Mofu Mofu Music Caravan」。成長初期段階から海外市場検証を目的に韓国でポップアップを実施した。

海外市場への進出で成功するのは必ずしも大規模IPだけではない。「いい人すぎるよ展」の中国進出支援を行ったSaltSweeetの虞臻が解説する。 

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「日本発IPの海外展開」と聞いて思い浮かぶのは、国民的に人気のあるアーティストや作品が満を持して海外市場に打って出るという華々しいイメージがあるかもしれない。私が代表を務めるSaltSweeetが現知コーディネイターとして携わった舞台『千と千尋の神隠し』の上海公演(2025年7~8月、全42公演)は、まさにその典型例だ。

それだけでなく、実はニッチなサブカルチャーにこそ、国境を超える熱狂の種が宿っていると私は考える。その代表例が、entakuの明円卓氏が手がける「いい人すぎるよ展」だ。日常のささいな「あるある」を切り取ったこの展示は、コアなファンがいるアニメやキャラクターのIPに比べて極めて「内輪ノリ」に近い。でも、体験したユーザーが自発的にSNSに投稿するUGC(ユーザー生成コンテンツ)との相性の良さがずば抜けていたので、海外でも「ニッチでありながらマスに届く」という大きな可能性があると考えた。 

25年5月に上海版を開催することを決め、約2カ月のスピーディな準備期間で実施。その後もアジア5都市への巡回へと展開していった。反響を生んだ施策のひとつが、オープン初日に設けた入場料無料の「学生デー」で、台北では想定を超える3000人もが来場。トレンドに敏感な学生が火付け役になり、「自分もSNSに面白い投稿したい!」と話題を呼んで会期中は連日満員となった。

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100人規模でも海外進出 

また、マスへの拡散を狙わずとも利益を生むことができるIPもある。ニッチ市場で熱狂的に指示されるIPを、ニッチな層(コアファン)に届けるというアプローチだ。例えば、小規模アイドルグループのファンミーティングや、原宿で熱狂的な人気がある古着屋のポップアップの企画・運営、キャラクターIPのポップアップなどがそれにあたる。 

来場者の規模は、音楽ライブであれば300~500人、物販系イベントであれば100人ほど。しかし「せっかく海外まで来てくれたから」と、ライブであれば昼夜2公演のVIPチケットを両方購入するファンも珍しくなく、アパレルでも一人あたりの購入単価が高い。大規模会場が不要なため投資リスクも低く、結果として数千人規模のイベントより大きな利益を生むことさえある。

こうしたニッチなIPは我々も伴走しやすく、数カ月かけながら企画を一緒に考えていくという協力関係を築きやすい。元々あるファンダムの熱狂をより深めるための好循環を生みやすいのだ。ただ、「日本で人気があるから中国でも無条件に売れる」というわけではない。14億人という巨大市場だからこそ、闇雲なプロモーションは費用がかさむだけに終わってしまう。本当に興味をもつ層をターゲットに据えた、文脈を重視したコミュニケーションが大切になる。

「日本で大ヒットしなければ海外には行けない」というのは、もはや幻想である。私たちが中国進出をサポートしたアーティストのimaseが「NIGHT DANCER」のバイラルヒットをきっかけに海外でブレイクしたように、たったひとつでも強い“武器”があれば、それを届けるためのSNSをはじめとするオンライン戦略を練り、海外進出の扉を開くことができるのだ。

現在の日中関係の緊張がエンタメ分野に影を落としているのも事実だ。しかし、今の中国の若者は冷静で、「政治と自分の“好き”は関係ない」と、良いものを素直に受け入れる土壌がある。リアルなイベント開催が難しい今の時期でも、デジタルやSNSでの発信で種を蒔き続けることはできる。来るべきタイミングに備え、ファンとの関係をオンラインで築いておくための準備期間ととらえることもできるはずだ。


ユー・ジェン◎中国とオーストラリアで育ち、日本文化に惹かれる。2020年にSaltSweeetを設立。IPの世界観や価値を損なうことなくローカライズし、海外のファンへと届けている。アーティスト、アパレル、イベントなど幅広い日本IPの中国展開を、PRから販売まで一貫して支援している。

文=堤 美佳子

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