米フォーブスが毎年発表する「Fintech 50(フィンテック50)」は、金融業界に変革をもたらす未公開スタートアップ上位50社を選出するリストだ。Fintech 50の選考では、単なる売上規模は問われない。既存の金融システムをどう変えたかという「サービスの革新性」、市場での「今後の成長性」などが厳格に評価される。Fintech 50に選ばれることは、業界内で「将来のユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)」として認められるだけのポテンシャルを意味する。
米国では通常、社会保障番号(SSN)を持たない移民は銀行口座を開設できず、母国の家族へ仕送りをするたびに高額な現金送金手数料を支払わざるを得ない。ニューヨーク拠点のフィンテック企業「Común(コムン)」は、この課題を解決するサービスを展開している。同社は、外国の身分証明書のみを使って無料の当座預金口座をオンラインで開設可能にし、手頃な手数料での海外送金を実現した。この実績が評価され、同社はフォーブス「Fintech 50」2026年版に初選出された。この事業を立ち上げたのは、共同創業者兼CEOのアンドレス・サントス(34)、共同創業者のアビエル・グティエレス(30)の2人だ。
移民に対する風当たりが強まるトランプ政権下において、Comúnがいかにして政治的逆風を乗り越え、ビジネスを成立させていくのか。その戦略を紐解く。
無料の当座預金口座を提供し、移民が家族を支えることを後押し
「米国で働く移民、特にヒスパニック系の人々にとっての最大の望みは、より良い車を買うことでも、高価なブランド品を手に入れることでもない。彼らの目標は家族を支えることだ」と語るのは、アンドレス・サントスだ。
サントスが見抜いたこの価値観こそが、同社のこれまでの成功の基盤となっている。Comúnは、無料の当座預金口座やVisaのデビットカード、全米8万8000台のATMネットワークへの無料アクセスを提供している。便利で手頃な手数料の海外送金サービスやスペイン語と英語によるテキストおよび電話サポート、中南米各国の100種類以上の身分証明書を使ってオンラインで口座開設できる仕組みなど、他の企業には見られないサービスも展開している。
トランプ政権下でも口座数は27万6000件に拡大、売上高は約19億6000万円に増加
トランプ政権が移民政策を強化し、合法・非合法を問わず移民の受け入れを事実上停止する中でも、Comúnの利用者層は拡大中だ。現在の口座数は27万6000件に達し、2025年の売上高は1250万ドル(約19億6000万円。1ドル=157円換算)と、前年から2倍以上に増えた。同社は2026年、フォーブスがフィンテック分野の有力企業50社を選出する「Fintech 50」に初めて名を連ねることとなった。
競合スタートアップが閉鎖・買収される中、従来型の銀行やデジタル銀行大手Chimeとの競争に直面
しかし、Comúnの未来は安泰とはいえない。従来型の銀行やデジタル銀行大手Chimeとの競争に直面する中、特定のコミュニティに特化した「アフィニティ銀行」系スタートアップの少なくとも6社が、過去4年間で閉鎖または買収された。直近で姿を消したのは、ヒスパニック系移民向けにデビットカードを提供していたSeisだ。同社CEOは先月の閉鎖時に、移民の減少を理由に挙げた。この点に関してサントスは、米国内にはすでに6500万人のヒスパニック系住民が暮らしていると指摘し、「新規の移民に依存しなくても成長は可能だ」と強調する。
銀行が法的地位を確認するよう求められるなど、政治的リスクが依然として残る
Seisの撤退で競争はやや緩和されたが、政治的リスクは依然として残る。移民政策に強硬な姿勢を取るトム・コットン上院議員(共和党、アーカンソー州)は2025年10月、米財務省に対し、外国の身分証明書を受け付ける際に銀行が法的地位を確認するよう義務付けることを求めた。現行制度では、その確認は義務ではない。
ベッセント財務長官は今月初めの上院公聴会で、「銀行システムに参加するすべての人が合法であることを確保する方法」を検討するよう銀行監督当局に要請したと証言した。ただし、すべての銀行に新たな規制負担を課すことには慎重な姿勢も示している。「我々は銀行に対し、より積極的に顧客を把握し、審査を行うよう促している」と同長官は述べた。



