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2026.02.26 08:30

「安売りしない」宣言 日本原料の模倣困難な浄水ビジネス戦略

齋藤安弘|日本原料

「安売りは絶対にしない」

シフォン洗浄技術はその後、世界33カ国で特許を取得している。全国発明表彰や文部科学大臣表彰科学技術賞などを受賞し、技術の素晴らしさは認められたが、ひとつ大きな欠点があった。

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「シフォン洗浄技術は結局、我々が浄水場にもっていってろ過砂を洗うための『道具』でしかない。『製品』ではないので売り上げが立たないのです。銀行からも『こんなにお金を使って…』とお叱りを受けました」

だが、めぐり合わせとは不思議なものだ。2000年代に入り、企業の地球環境への配慮がいっそう注視される時代になっていた。この時代の変化が、日本原料の新たな事業のきっかけとなる。

日本原料がろ過砂を納めているのは浄水場だけではない。メーカーなどの工場には、必ずと言っていいほど浄水装置がある。

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例えば、自動車工場では自動車1台をつくるのに3〜5トン、半導体工場では1日に20万トン以上の水が必要だといわれる。大量に使われる工業用水は、水道水で賄っていたらとんでもない費用がかかってし
まう。そのため多くの工場では井戸を掘るなどして原水を取り出し、工場内でろ過して使っている。ここでも、日本原料のろ過砂が活躍している。

工場では浄水場ほど大量にろ過砂を使うわけではないので、更生工事を行うよりも、古い砂を捨てて新しい砂に交換したほうが安上がりだ。ところが、国際規格の「ISO14001(環境マネジメントシステム)」や「ゼロエミッション」を謳い始めた企業は、産業廃棄物を増やすわけにはいかない。なかには、ろ過砂の交換の際に「買ったことにして古い砂をもって帰ってくれないか」と頼んでくる企業もあった。

そこで齋藤はひらめいた。「浄水装置のタンクのなかに、シフォン洗浄の装置を埋め込んでしまえば、砂を交換せずとも半永久的にろ過し続けられる。新しいパラダイムの浄水装置ができるんじゃないか……?」このアイデアから生まれたのが、ろ過砂の交換が不要な浄水装置「シフォンタンク」だった。これなら、メーカーは地球環境への配慮とコスト削減を両立できる。日本原料は、苦労して確立した技術をようやく「製品」として世に出すこととなった。齋藤には心に決めていることがあった。

「安売りは絶対にしないと決めていました。それまで我々はずっと『下請け』として扱われてきました。ろ過砂の利幅はもともと薄いうえに、浄水場をつくるプラントメーカーから安く買いたたかれることもあった。更生工事も同じです。だから、ほかでは買えないシフォンタンクには、しっかりと利益を乗せる。値引きも一切していません」

移設が可能な「モバイルシフォンタンク」。ろ過タンクや制御盤、薬品注入装置など水処理に必要な装置が、ひとつの箱に収まっている。水色と黄色でカラーリングされたもの(左)は、ウクライナに提供されたものと同じ仕様。
移設が可能な「モバイルシフォンタンク」。ろ過タンクや制御盤、薬品注入装置など水処理に必要な装置が、ひとつの箱に収まっている。水色と黄色でカラーリングされたもの(左)は、ウクライナに提供されたものと同じ仕様。

シフォンタンクには据え置き型のものと、その後に開発されたよりコンパクトな可搬式のもの(モバイルシフォンタンク)がある。これまでに全国の浄水場、製造業大手の工場、テーマパークなどで350基以上が導入されている。シフォンタンクが3本目の柱となったことで、思わぬ相乗効果をもたらした。ろ過砂の原材料となる砂は、世界的に枯渇している。砂はコンクリートにも使われるため、近年、開発途上国での需要が拡大。輸出を制限する国もあり、価格が上がっている。このコスト上昇分を「企業努力」で吸収するのは限界が来ていたが、シフォンタンクをきっかけに、ろ過砂自体も安売りしなくてよくなったのだ。

「買いたたこうとするところには売らなければいい。それでも我々のろ過砂の品質を求めるお客さんは多かったので、適正な価格転嫁ができるようになりました。シフォンタンクという利益率の高い柱が立ったことで、ほかの柱も強くなっていったのです」

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文=中居広起 写真=アーウィン・ウォン

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