不透明な契約
不透明さの問題はこうだ。リスクは見えないからといって消えるわけではない。蓄積するのである。データセンター、クラウドプロバイダー(クラウドサービス提供者)、そしてそれらに融資する銀行はすべて、前提に基づいた財務モデルを組み立てる。まずGPUが一定のレートで貸し出されると仮定する。次にGPUの稼働率が特定の水準に達すると見込む。そしてアップグレードの時点でハードウェアが一定の残存価値を保つと想定する。しかし、これらの前提が市場の他の取引と比較できない個別契約の中に埋もれているとき、それが正しいかどうかを誰も本当には知らない。
AI市場には、一見すると単純に見える契約があふれている。しかし、稼働率がモデルより低かったらどうなるのか、納入が遅れたらどうなるのか、3年後にハードウェアがまったく異なる価格でしか売れなかったらどうなるのかと問うた途端に、その脆さが露呈する。問題は取引が行われていることではない。取引が不透明で時価評価が難しいため、破綻がゆっくり進み、やがて一気に顕在化することだ。
1000億ドル(約15.5兆円)規模のデータセンター・プロジェクトを考えてみよう。その約80%がGPUの購入に充てられる。これらのGPUが1時間あたり5ドル(約774円)で貸し出されることを前提に、融資返済に足る収益を生むとモデル化されていたとする。ところが市場が変化し、貸出レートが1時間あたり2ドル(約310円)まで崩落したとしたら──H100チップでは2023年から2024年にかけて実際に起きたことだが──、データセンターは債務を返済できなくなる。
投資家が損失を被る。それは想定の範囲内だ。しかし波及はそれにとどまらない。AIは今や、病院、銀行、物流ネットワーク、国家インフラの重要システムを動かしている。計算基盤が不安定になれば、その上に構築されたすべてが脆弱になる。
貸し手は、信用スコアを見る前に「GPUの確保済み割り当てはあるか」と尋ねるように
金融アナリストはすでに神経質になっている。貸し手は信用スコアを見る前に「GPUの確保済み割り当てはあるか」と尋ねるようになった。以前はデータセンターへの融資を当然のように行っていた銀行も、リスクの性格が従来型の融資に合わなくなったとして後退している。一方、GPUを担保とした債務は積み上がり、すでにCoreWeave(コアウィーブ)の1社だけでも104.5億ドル(約1.6兆円)を抱える。
こうした融資の多くは、真のレバレッジ(借入比率)を隠すオフバランスシート構造(貸借対照表に計上されない取引形態)を通じて行われている。GPUの更新サイクルは2〜4年であり、設備投資は止まることがない。そして、中古チップの実際の価値を示すセカンダリーマーケット(中古流通市場)のデータはほとんど存在しない。


