食肉輸出においては、各国が自国の基準に基づき、加工施設そのものを「認定工場」として個別に承認する。つまり、ハラル対応施設であっても、UAE向けに輸出するには、UAE独自の基準に基づいた正式な認定を、1対1で受ける必要がある。
この認定は他国と自動的に共有されるものではない。たとえ同じ国内で処理された和牛であっても、カタールで認められた施設が、UAEや他の中東諸国でもそのまま通用するわけではないのだ。
そのため、輸出は「一気に広げる」ものではなく、国ごとに基準を理解し、関係を築き、段階的に市場を切り拓いていくプロセスになる。
「国内だけでは持続しない」──宮崎が直視した市場の限界
こうした国別認定を一つひとつ積み上げていくやり方は、外から見れば、手間も時間もかかる非効率な戦略に映るかもしれない。それでも宮崎がこの道を選んだ理由について、現地を訪れた宮崎県の日隈俊郎副知事は次のように語る。
「国内市場は、今後確実に縮小していきます。人口減少や食生活の変化を考えれば、国内だけを前提にしたモデルでは、畜産を持続させるのは難しい。だからといって、安く売る方向に行くのではなく、価値を正当に評価してくれる市場とつながる必要があります。その一つが海外であり、中東市場です」
日隈副知事にとって、海外展開は「拡大」や「挑戦」ではない。国内市場の変化を直視したうえで、産地と生産者を守るために選び取られた、現実的な市場設計の転換なのだ。
副知事が語る「価値を正当に評価してくれる市場とつながる」という言葉は、抽象論ではない。 現場ではすでに、その前提に立った具体的な取り組みが始まっている。日本産和牛の流通に携わり、カタールをはじめ中東各地で宮崎牛や有田牛の輸出にかかわってきたNIKUJILLEの有田ジェームス氏は、海外市場で直面してきた現実をこう語る。
「海外に出せば、すべてがうまくいくわけではありません。実際に動いているのは、サーロインやヒレ、リブロースといった一部の高級部位が中心です。和牛一頭から取れる約350キロの肉のうち、ほんの一部しか評価されていないのが現状です」
国内では、これまで残りの部位を消費することで一頭分のバランスを保ってきた。しかし、その国内需要自体が縮小している今、従来の構造は成り立たなくなりつつある。
「特定の部位だけが売れても、農家の収入は安定しません。一番厳しい立場に置かれるのは、生産者です」
だからこそ有田氏は、「肉を輸出する」だけではなく「扱い方まで含めて輸出する」必要があると考えている。
「和牛は、切り方や調理法で価値が大きく変わります。日本では当たり前でも、海外ではまだ知られていない部位や食べ方がたくさんある。それなら、こちらからカットの仕方や使い方を伝えていけばいい」
「高級部位だけ」を売らないという選択
実際、ドバイで開かれたレセプションでは、ランプやイチボといった現地では普及していない部位のカット方法や調理法を、シェフやバイヤーに直接伝えるデモンストレーションが行われた。高級部位だけでなく、一頭まるごとをどう活かすか。その発想そのものを市場に持ち込む試みだ。参加者はスマートフォンを片手に興味深く見入っていた。
「高級部位だけを売るのは簡単です。でもそれでは、結局価格競争になる。一頭分の価値を理解してもらえれば、買う側も売る側も、長く続けられる関係になります。10年後、若い人たちが『畜産をやりたい』『肉を扱う仕事に就きたい』と思える産業でなければ、一次産業は続きません。そのためには、価値で評価される市場が必要なんです」
こうした構想の要となっているのが、宮崎県西都市に設立された「SEミート宮崎」だ。ここは、宮崎県で初めてとなるハラル対応の食肉処理施設である。


