代償その1:自分の好みを徐々に失う
最初に影響を受けるのは自分の好みだ。価値観や道徳のことではなく、どこで食事をしたいか、週末をどう過ごしたいか、どんな生活リズムが快適か、どれくらいの感情的な受け入れを求めているかといった日常的な小さなニーズのことだ。
他の人のニーズを自分のものより優先し続けると、調和を保つために自己沈黙や自己表現を抑制するパターンが生まれる。自己沈黙の傾向がある人は次のような特徴がありがちだ。
・自分の望みを最小化する
・反射的に決定を他人に委ねる
・自分の欲求と切り離されたようなに感じる
・「何をしたい?」という単純な質問に答えられない
特に興味深いのは、こうした傾向は「柔軟性」だと思い込んでいるため、自分の中で抑圧とは感じにくい点だ。しかし心理的には自己参照を伴わない柔軟性は自己消去のようなものだ。
縦断研究では、自己概念が明確でない人ほど時間の経過とともに心理的ウェルビーイングが弱まり、内面的な一貫性も乏しくなることが示されている。言い換えると、自分の内部の状態や好み、アイデンティティについて明確でない人は、人生への満足度も低く、感情的に自分から切り離された感覚を抱きやすい。
重要なことに、長期的な代償は突然の自己喪失ではなく、静かな同一性拡散だ。他人に対して敏感になるが、自分についてはますます曖昧になる。 周囲の空気を読むことはできるが、自分の内面のサインを読み取れない。その断絶は後になって慢性的な不満や優柔不断、または「見た目はうまくいっているのに、自分の人生という感じがしない」という感覚として現れることが多い。


