加えて、体表での熱交換に依存する動物のほとんどは、表皮のすぐ下に大量の血流を備えているが、スピノサウルスの化石の構造に、これに合致する特徴は見られない。これら2つの知見は、帆が特殊化した放熱器や吸収器として機能したという、初期の研究者が提唱した仮説を覆した。
これまでのところ、帆の機能として最も有力視される解釈は、装飾形質、すなわちほかの恐竜に対する視覚的シグナルであったというものだ。このような形の装飾形質は、今日の動物界にも広く見られる。例えば、以下のような例となる。
・鳥の派手な羽色
・シカの大きく堂々とした角
・トカゲのデュラップ(喉にある、開閉可能な皮膚のひだ)
このような大型で目立つ視覚的構造は、通常は性淘汰または社会的シグナル伝達のメカニズムによって進化する。要するに、配偶相手に対して自身の魅力を伝えることや、ライバルを威圧することに役立つのだ。
先述した2016年の論文の著者らは、帆のような構造は、性的二型が大きい(オスとメスの外見が顕著に異なる)種、および複雑な社会行動を示す種において、より大きく発達してきたと論じている。スピノサウルスの場合、背中の高い帆は、陸上にいるときも水中を歩いているときも、遠くからよく視認できただろう。
このような装飾は、直接的な闘争にコストをかけることなく、ライバルの「力量を測る」ことや、自身の優位性を誇示することにも役立った可能性がある。負傷のリスクが低い儀式的闘争は、現生動物にも広く見られる進化のパターンだ。
だが、スピノサウルスの帆の謎の答えとして「装飾」だけを進化の要因とみなすのも、やはり不十分だ。
半水生のライフスタイル
スピノサウルスが半水生だったと最初に主張したのは、2014年に『Science』に掲載された論文だ。著者らは同論文において、スピノサウルスは、同じく超大型の肉食恐竜であるティラノサウルスやカルカロドントサウルスとは異なり、純陸生の捕食者ではなかった可能性が高いと論じた。彼らが示した根拠は、スピノサウルスの化石が示す以下のような形質が、いずれも水辺、あるいは水中で生活する動物に典型的に見られるというものだ。
・密度の高い骨:浮力制御を補助した可能性があり、現生種ではペンギンに見られる
・水かきやパドル状の構造を備えた足:ぬかるんだ地面や浅瀬の移動に役立った
・高さがあり、柔軟な尾:左右にくねらせる推進運動に適応
・細長い吻:魚の捕食に最適
一部の古生物学者は、これらの形質を考慮した上で、帆は装飾に加えて、流体力学的機能も果たしていたのではないかと考えている。魚のひれのように機能したわけではないが、スピノサウルスが水中を移動し、水圏と陸圏の移行帯で生活するなかで、安定性やバランスの確保に役立つものだった、という可能性だ。


