重要なのは、クモがこの経路をたどる間は、標的が視界から外れる点だ。迂回を開始すると、獲物はまったく見えなくなる。しかし、目標地点が見えない状況でも、ケアシハエトリグモは1回目の試行で正しい経路を選択し、最後までたどり着いた。さらに驚くべきは、獲物に近づく前に一旦遠ざかる必要がある経路であっても、同様の結果が得られたことだ。
研究チームが結論づけたように、この行動は、ケアシハエトリグモが実際の狩りを始める前に、狩りの経路に関する表象を内的に生成していることを強く示唆するものだ。すなわち、事前に計画を立てていたことを意味する。
研究チームはまた、においの跡をたどっている可能性や、直近の視覚的手がかりへの反応など、他のわかりやすい説明を排除するための対照実験も行なった。クモたちは一貫して、事前に視覚的に確認しただけの正しい経路をより多く選択した。これは、クモの行動が反射的なものではなく、計画的な行動であることを示している。
しかし、ケアシハエトリグモの戦略が優れている点は、計画性だけではない。これに加えて、狩りが事前の計画どおりにいかない場合には、驚くべき柔軟性も示すのだ。すなわち、獲物が移動したり、姿勢を変えたり、身を守る反応を見せたりすると、ケアシハエトリグモは一旦停止し、状況を再評価して戦術を変える様子が観察されている。
例えば、2000年に『Cimbebasia』誌に掲載された別の研究によると、ケアシハエトリグモは、標的とするクモの巣を振動させて、昆虫が巣に捕えられたように装うことで、標的となるクモをおびき出すのだが、この際に、この振動のリズムを変えたり、あるいは、一旦退いて別の角度から接近したりする。
巣を張っているクモを狩る時のケアシハエトリグモは、もがく昆虫が生み出す振動を模倣するように、巣の糸をはじく様子が観察された。標的となるクモは、それぞれ固有の戦略に応じて、異なる振動パターンに反応するのだが、ケアシハエトリグモはそれに合わせて戦略を調整していた。さらに興味深いことに、ケアシハエトリグモは、あるパターンが失敗すると、標的となるクモに対して発するシグナルを修正し、標的となるクモが近づいてくるまでパターンを変え続けることも明らかになった。
この種の「フィードバックに基づく調整」は、無脊椎動物ではめったに見られないものだ。このクモは実質的に、標的となるクモが行う「感覚情報に対する予測」を操作している。これは、ケアシハエトリグモは、若い個体のうちから時間をかけて、狩りの成功率と欺きの戦術を向上させていくことを意味しており、学習能力があることを示唆している。


