未上場企業を買収し、経営を立て直して高値で転売する。プライベートエクイティ(PE)とは、この「企業価値の向上と売却」で巨額の富を築く投資会社だ。彼らは投資家から集めた資金と多額の借入金を元手に企業を買い、数年後に売却(イグジット)して利益を得る。かつては低金利を追い風に市場を席巻し、ウォール街の星として輝いてきた。
だが現在、その錬金術が通用しなくなっている。金利上昇で買収コストが膨らむ一方、市場の冷え込みで肝心の「売却」ができないからだ。数百ものPEファームが、換金不能な在庫を抱えたまま、資金繰りに行き詰まっている。手数料収入だけで生き永らえる彼らは、「プライベートエクイティ・ゾンビ(PEゾンビ)」と呼ばれ始めた。成長のサイクルが止まり、ただ延命するだけのPEファームに対し、投資家の忍耐は限界に近づいている。
数十年の成長を遂げたPEファーム、運用資産を大幅に縮小し次号ファンドの立ち上げ計画を断念
ニューヨーク市拠点のベスター・キャピタルは1年あまり前、出資者であるリミテッドパートナーに対し、意外な方針転換を伝えた。数十年にわたる成長を経て、同社は8号ファンドの立ち上げ計画を取りやめ、既存の投資先ポートフォリオの立て直しに注力すると決めたのだ。これは、2018年に約1683億円(11億ドル)を集めたファンド「ベスター・キャピタル・パートナーズVII」の内部収益率(IRR)が7.7%だったことによる。同期間のS&P500が平均14%のリターンを上げたのに対し、その実績は大きく出遅れている。
ベスターは、PEの第1次ブームのさなか、1988年に誕生した。同じ年、この分野の先駆者KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)は、RJRナビスコを250億ドル(現在の価値で約700億ドル[約10.7兆円])で買収した。多額の借入金(レバレッジ)を用いて企業を買収するLBOが全盛となり、攻撃的な買収を仕掛ける投資家が注目を集めていた時代だ。
それから状況は大きく変わった。現在、世界には1万5000社以上のPEファームが存在し、運用資産総額は9兆ドル(約1377兆円)に達している。PEはもはや一部の専門家の世界ではなく、主流の投資手法となった。ベスターの創業者たちは、ファースト・ボストン出身のバンカーで、赤いプラスチック製カップで知られるソロや、ペットフード大手のビッグ・ハート・ペット・ブランズなどの売買を手がけてきた。代表的な成功例には、1億7500万ドル(約268億円)で買収したバーズ・アイ・フーズを2009年に13億ドル(約1989億円)で売却した取引が挙げられる。
しかし現在、ベスターは内向きの姿勢に転じ、過去13年間に取得した12社の投資先に目を向けている。そこには、野菜食品ブランドのドクター・プレイガーズ、冷凍ベリー加工会社のタイタン、ペット向け代替医薬品を手がけるペットオネスティが含まれる。ベスターは、2023年以降、新たな投資先を1社も追加しておらず、2025年に発表した売却も1件のみで、2019年に出資したクラッカーメーカーのシンプル・ミルズを、7億9500万ドル(約1216億円)でフラワーズ・フーズに売却したのみだった。
運用実績が市場平均を大幅に下回り、運用資産は約1.1兆円から約5049億円に縮小
企業を買収し、利益を乗せて売却するPE業界において、ベスターの将来には疑問符が付く。最新の米証券取引委員会(SEC)への提出書類によれば、同社の運用資産は15年前の70億ドル(約1.1兆円)から、2024年時点で33億ドル(約5049億円)へと大きく縮小した。ベスターは本稿についてコメントを控えた。
北米・欧州で同時多発的な苦境が広がり、資金調達の目標額に到達できない事例が急増
新時代を迎えたこの業界は現在、「PEゾンビ」の時代に入っている。かつては数多くのビリオネアを生み出したPE業界は、北米や欧州で同時多発的な苦境に直面している。コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーによれば、2025年時点で市場には1万8000本を超えるプライベートキャピタルファンドが存在し、総額3兆3000億ドル(約50.5兆円)の資金調達を目指していた。ただし、実際に集まる資金はその3分の1にとどまり、資金の配分も、従来型のバイアウトからクレジットやインフラ関連ファンドへとシフトしていると予測されている。
PE分析会社プレキンのデータによると、2025年にクローズしたファンドが資金調達に要した期間は平均23カ月と、2021年の16カ月から大幅に延びた。目標額に到達できないファンドも増えている。2025年に資金を集めたバイアウトファンドは1191本、総額は6610億ドル(約10.1兆円)で、2021年の2679本・8070億ドル(約12.3兆円)から減少した。
ブラックストーンなど巨大ファンドに資本が集中、PE業界内の選別と二極化が加速
一方で、ブルーチップとされる巨大ファンドはこの流れに逆らい、引き続き資金を集めている。トーマ・ブラボーは2025年、16号の主力ファンドで243億ドル(約3.7兆円)を調達し、ブラックストーンは217億ドル(約3.3兆円)、ベリタス・キャピタルは144億ドル(約2.2兆円)のファンドをそれぞれ完了させた。ベリタスCEOでビリオネアのラムジー・ムサラムはフォーブスに対し、「統合は高いパフォーマンスを出すファンドに有利に働いている」と語り、「現在存在しているファンドの多くは、5年後には存在していないだろう」と付け加えた。
多くの中堅ファンドが「ゾンビ化」
突出した運用実績や独自の戦略を持たないファンドは、次々と取り残されつつある。新規資金の流入を生命線とするPE業界では、ファンドの数が多すぎる一方で、年金基金や大学基金などの機関投資家が拠出できる資金には限りがあり、すべてを満たす余地はない。その結果、多くの中堅ファンドが「ゾンビ化」し、売却できない投資先を抱えたまま、次の投資に必要な資金を集められずにもがいている。
レイモンド・ジェームズでプライベートキャピタル・アドバイザリー部門のグローバル責任者を務めるスナイナ・シンハ・ハルデアは、「現在の資金調達環境では、いくつものファンドが存続の危機に直面している。既存投資家が追加支援に応じなければ、新たな投資家が現れる可能性はきわめて低い」と語った。
フォーブスは今回、こうした「PEゾンビ」の中でも規模の大きい20社をリストアップした。本稿冒頭で挙げたベスターのように事業規模を縮小している企業もあれば、ほとんど成長できずに足踏みしている企業も含まれる。ピッチブックによれば、北米と欧州では、既存PEファームのうち数百社が、2020年以降に新たなバイアウトファンドを立ち上げていない。今回挙げた20社はいずれもその中でも規模が大きく、少なくとも5年以上にわたって投資家から新たな資金を引き出せていないか、前回ファンドを大きく下回る規模での資金調達を余儀なくされた企業だ。
PEファンドは長年、資金調達を終えた後の最初の3〜5年で投資を実行し、その後の3〜7年で投資先を売却して利益を確定させる仕組みで運営されてきた。結果として、投資家は出資からおよそ10年後に、元本に一定の利益を上乗せして回収することを期待する。運用会社が受け取るマネジメントフィーは、通常、投資初期には年率でおよそ2%に設定され、その後の期間は引き下げられる。一方、成功報酬であるパフォーマンスフィーは、まず年率8%前後のハードルを超える運用益を出すことが条件となり、その超過分の20%が運用会社に支払われる。



