投資家への実際の現金回収比率が低下し、PEファームは継続ファンドによる時間稼ぎに奔走
IRR以上に重要だとされる指標が、DPI(ディストリビューテッド・トゥ・ペイドイン・キャピタル)と呼ばれるものだ。これは、投資家が払い込んだ資金に対して、これまでにどれだけの現金が実際に返ってきたかを示す比率で、要するに、「払った金額に対して、どれだけ回収できたか」を測る指標だ。
ワシントン州の年金基金の資料によると、同基金はベスターの2018年ファンドに2億3300万ドル(約356億円)を払い込み、2025年6月時点で回収できたのは1億4000万ドル(約214億円)にとどまっていた。つまり、DPIは0.6倍にすぎない。
10年前であれば、設立から7年が経過したファンドのDPIは、通常0.8倍程度だった。2020年に運用を開始したマディソン・ディアボーン・キャピタル・パートナーズVIIIは、現時点でDPIが0.3倍にすぎない。コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーの2025年半ばのレポートによれば、米国と西ヨーロッパにおける2020年運用開始のバイアウトファンドのDPIの中央値は0.2倍を下回り、2019年開始ファンドでも0.4倍にとどまった。いずれも、同じ運用段階にある過去のファンドの基準値を10ポイント以上下回っている。
流動性の低下は、深刻化している。ベインによると、年間で投資家に分配される金額が純資産価値に占める割合を示す「分配利回り」は、10年前は25%を超えていた。しかし、過去3年間の平均では11%まで低下している。
「9年も資産を保有し続けたり、分配利回りが10%程度に落ち込むような事態は、どのモデルも想定していなかった」と、テキサス州教職員退職年金基金でPEファンド部門を統括するスコット・ラムソワーは語る。「私たちのモデルはすべて、2026年に1年前に想定していたほどの資金を市場に投じるべきではないことを示している」
「コンティニュエーション・ファンド」
だが、したたかな金融のプロを決して見くびってはならない。新たな資金源が乏しい状況でも、苦境に立たされたバイアウトファンドには打つ手が残されている。PE業界で現在流行しているのが、早期の資金回収を望むリミテッドパートナーの持ち分を現金化しつつ、特定の投資先を引き続き保有することで、運用会社が時間を稼ぐ仕組みの「コンティニュエーション・ファンド」だ。
クレストビュー・パートナーズは、運用資産が70億ドル(約1.1兆円)に達した後、主力ファンドの資金調達をいったん停止したと報じられている。この時、2025年には6億ドル(約918億円)規模のコンティニュエーション・ファンドをクローズし、2015年のファンドで取得した2社の保有を維持した。同社の広報担当者は、困難に直面しているにもかかわらず、「投資に再投入可能な資金を十分に確保しており、有望な機会を幅広く検討している」と述べている。
今回の「ゾンビ」リストに名を連ねた多くのファームも、過去2年間でコンティニュエーション・ファンドを組成してきた。ベスターをはじめ、パラディウム・エクイティ、ブレントウッド・アソシエーツ、レベラー・キャピタル、ノルウェーのFSNキャピタルなどだ。オネックスも、この手法を検討するために16億ドル(約2448億円)を集めているとされる。
特定の投資先資産を新ファンドへ移す手法が広がり、約6.1兆円を超える巨額の資金が動く
エバーコアのプライベートキャピタル・アドバイザリー部門によれば、マネジメントフィーが低めに設定されるコンティニュエーション・ファンドの資金調達額は、2024年に620億ドル(約9486億円)、2025年上半期だけでも400億ドル(約6.1兆円)を超え、この10年で急速に拡大した。
ロンドン拠点のキャンベル・ルティエンスで北米のPEプレースメント責任者を務めるサラ・サンドストロムは、「コンティニュエーション・ビークルは、DPIを改善するうえでは有効で、有望な資産により長い時間を与えることもできる。ただし、新規案件に投じるための新たな資金をもたらすわけではない」と述べている。そのうえで、彼女は「若手の人材は新しい取引を手がけることに大きなやりがいを感じる。最優秀の人材を引き留めるには、安定した投資余力を確保しておくことが重要だ」と指摘した。
別の選択肢として、リミテッドパートナーに共同投資の機会を提供する方法もある。これにより、機関投資家が投資先企業に直接出資できるため、運用会社側のフィー負担や資金調達の必要性を抑えられる。スイスのPEファーム、キャプビスは踏み込み、資金調達が思うように進まず、今後は案件ごとに個別で資金を集める方針を選んだ。
個人向け資産運用市場からの資金流入は限定的、中堅ファームが直面する厳しい現実
資産運用ビジネスを通じて、年金口座などから数兆ドル(数百兆円)規模の個人資金が流入し、救いとなる可能性は低い。レイモンド・ジェームズのハルデアは、「証券会社や登録投資顧問、銀行のゲートキーパーは、投資の質と規模を強く重視する。個人向け市場に本格参入できているのは、ブラックストーンやアレスといった大手に限られている」と述べている。これは、救命ボートを待ち続ける数百社の中堅PEファームにとって、厳しい現実だ。
なお、ベスターは本稿の米国版公開後、2025年にクエスト・アナリティクスとプレゼンス・マーケティングを売却していたことを新たに明らかにしたが、いずれの案件でも金額を公表していない。


