北米

2026.02.13 15:00

ウォール街の星「PEファーム」に淘汰の波、「ゾンビ化」が相次ぐ理由

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運用実績が上がらない状況でも、安定的なマネジメントフィーが実績のないファームの延命を支える

高い運用成績を上げ、多額の成功報酬(キャリード・インタレスト)を生み出すトップクラスのファンドは、PEマネジャーを一気に超富裕層へと押し上げる。2025年のフォーブス400には、PEで財を成した人物が33人含まれていた。ただし、運用成績が振るわなくても、運用会社がすぐに資金繰りに苦しむわけではない。好況でも不況でも、安定的に入るマネジメントフィーが事業を支えるからだ。本稿冒頭のベスターのように規模が縮小している会社であっても、マネジメントフィーだけで年間数千万ドル(数十億円)に達することがある。

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こうした収益構造は、PEファームにとっておよそ5年ごとに新たなファンドを立ち上げ、安定した収入源を確保する強い動機となる。あるいは、十分な利益で売却できない場合でも、評価額の高い資産を手放さずに保有し続ける判断を後押しする。特に、低金利によって資金調達が容易だった2021年までの局面で高値で企業を買収したファームほど、現在は十分なリターンを確保しにくく、キャリード・インタレストの大きな収穫を得る機会が減っている。

年率換算リターンが年率約7.4%に急落、投資案件の平均保有期間は約6年に長期化

リターンは業界全体で低下している。ケンブリッジ・アソシエイツの米国PE指数によると、2025年6月までの3年間の年率換算リターンは7.4%にとどまり、MSCIワールド株式指数を年率で11ポイント下回った。これは、PEが市場を上回ってきた過去10年の年率14.7%、20年の年率13.7%という実績からの急落だ。

多くのケースで、運用会社は、資産を保有し続けてマネジメントフィーを取り続けるか、年率8%のハードルを超えられず成功報酬が見込めないまま売却するか、難しい選択を迫られている。こうした事情から、バイアウト案件の平均保有期間は2025年に6.3年へと延び、2020年の約5.1年から長期化した。

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「現在目立ってきているのは、次のファンドを立ち上げられない一方で、フィー収入が得られることを理由に、主力となる資産の売却を先送りする運用会社だ」と、ロサンゼルス拠点の投資銀行フーリハン・ローキーでプライマリー・キャピタル・アドバイザリー部門のグローバル共同責任者を務めるトム・ドノバンは語る。「資産を売れば、そのフィーは消えてしまう」。

運用資産額約3.5兆円のオネックス・パートナーズ、過去最悪の厳しい資金調達環境に苦しむ

フォーブスの「ゾンビ」リストの中で最大のPEである、運用資産230億ドル(約3.5兆円)のオネックス・パートナーズは、2017年に主力の5号バイアウトファンドを、目標としていた65億ドル(約9945億円)を上回る72億ドル(約1.1兆円)でクローズしていた。トロント拠点のこのバイアウトファームは、数年ごとに主力ファンドの規模を着実に拡大しており、2006年は35億ドル(約5355億円)、2009年は47億ドル(約7191億円)、2015年は57億ドル(約8721億円)と増やしてきた。

同社の成功を象徴する取引の1つが、2005年にボーイングから航空機部品メーカーのスピリット・エアロシステムズを3億7500万ドル(約574億円)で買収した案件だ。2014年に株式公開を経て保有株をすべて売却するまでに、この投資は32億ドル(約4896億円)のリターンを生んだ。この「ホームラン」を含む最初のバイアウトファンドの純内部収益率(IRR)は38%に達し、同期間のS&P500のリターンの9.5%を大きく上回った。

しかし、この実績が投資家の期待を一気に高めた一方で、オネックスのその後のファンドは同水準の成績を再現できず、IRRは7〜13%の範囲にとどまっている。

2023年になると、オネックスは6号主力ファンドの資金調達をいったん停止した。同社はその1年前、当時までに集めた20億ドル(約3060億円)のうち15億ドル(約2295億円)が親会社オネックス・コープからの出資になると明らかにしていた。ロバート・ルブランCEOは、2023年の投資家向け説明会で、当時の資金調達環境を「業界史上、最も厳しい局面だった」と表現し、「資金調達サイクルの悪い時期に巻き込まれた」と語った。

2025年、オネックスは通常5年としている投資期間を2年に短縮した「オポチュニティーズ・ファンド」で12億ドル(約1836億円)を調達することには成功した。また、投資先の売却という点では、同社は多くの「ゾンビ」よりも運に恵まれている。10月には、2019年に共同設立した特殊保険会社コンベックスを70億ドル(約1.1兆円)で売却した。ただし、入札合戦が起きたわけではない。コンベックスはオネックスの親会社に売却され、そこにAIGがパートナーとして加わる形となった。

PE運用会社が同情を集めることはほとんどないが、資金調達の停滞がフィー収入を圧迫しているのは事実だ。最近の提出資料によれば、オネックスのPE部門が得るマネジメントフィー収入は、2019年の1億4600万ドル(約223億円)から2024年には9300万ドル(約142億円)に減少し、直近では年率換算で8100万ドル(約124億円)程度にまで落ち込んでいる。

複数のPEファームが、前号を大きく下回る規模で資金調達

同様に苦戦しているPEは、他にも少なくない。例えば、シカゴ拠点のマディソン・ディアボーン・パートナーズだ。同社は、資産運用会社ニュービーンやヤンキー・キャンドル、LAフィットネスなどへの投資で知られ、1992年の設立以降、8本のファンドで総額360億ドル(約5.5兆円)を調達してきた。同社8号目にあたる最新バイアウトファンドは2021年にクローズし、内部収益率(IRR)は12%だったが、これは同期間のS&P500の年率リターン約15%を下回った。報道によれば、同社は9号ファンドとして30億ドル(約4590億円)の調達を目指しているが、実現すれば1999年にクローズした3号ファンド以来、最小規模の資金調達となる。

ニューヨークのサイリス・キャピタルは、2019年に35億ドル(約5355億円)規模のテクノロジー特化型バイアウトファンドをクローズしたが、IRRは8.3%にとどまる。同期間のナスダック総合指数は年率16%だった。SECへの提出書類によると、同社は2022年に40億ドル(約6120億円)の調達を試みたものの、実際に集まったのは3億3900万ドル(約519億円)にすぎなかった。クレストビュー・パートナーズは2019年に24億ドル(約3672億円)のファンドをクローズし、IRRは8.4%を記録したが、その前の31億ドル(約4743億円)規模のファンドのIRRはわずか1.4%で、一般的なマネーマーケット口座の利回りをも下回っている。

シカゴ大学でプライベートエクイティを研究するスティーブン・カプランはこう語る。「良いファンドが2本続いたあとに1本失敗した程度なら、まだ望みはある。次は良くなると投資家を説得できるからだ。しかし、悪いファンドが2本続けば、望みはほとんどない」。

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翻訳=上田裕資

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