ピーター・ティールと関係を築き、投資の実利を得る
エプスタインがテック業界で最も早い時期から、かつ頻繁にやり取りしていた相手の1人が、ピーター・ティールのようだ。彼は、ペイパル創業者でありファウンダーズ・ファンドの投資家でもある。司法省のアーカイブに残るメールによれば、2014年以降、エプスタインは保守系投資家であるティールと数十通に及ぶメールをやり取りし、2017年までに少なくとも8回、食事をともにしていたことがうかがえる。
エプスタインはメールの中で、言語学者ノーム・チョムスキー、映画監督ウディ・アレン、元ノルウェー外交官のテリエ・ロッド=ラーセンとの会食を持ちかけていた。イスラエル元首相エフード・バラク、ロシア元経済次官セルゲイ・ベリャコフを紹介できるとも提案していた。
エプスタインは何度も、ティールを自身の島へ招待している。「私はいつでも好きなように動ける」「島に来るのがいいか、それともニューヨークで会おうか」と、彼は2014年のメールに書いていた。ティールの広報担当者ジェレマイア・ホールは、ティールがその島を訪れたことは1度もないと述べ、2人の関係についてはコメントしなかった。
ヴァラー・ベンチャーズに対し、約63億円の投資を約束
この関係は、少なくともエプスタインにとっては実利をもたらしたように見える。彼は2015年と2016年に、ティールが共同創業したヴァラー・ベンチャーズに対し、総額4000万ドル(約63億円。1ドル=157円換算)の投資を約束した。同ファンドは、英国の送金プラットフォームのワイズ(旧トランスファーワイズ)、フランスの銀行クオント、ニュージーランドの会計ソフト企業ゼロなど、シリコンバレー以外のスタートアップを支援している。ニューヨーク・タイムズによれば、この投資の評価額は2025年時点で1億7000万ドル(約267億円)にまで膨らんでおり、仮に売却されれば、エプスタインの遺産に数百万ドル(数億円)規模の利益をもたらす計算になるという。
コインベースへの出資で、約47億円以上の利益を得た可能性
エプスタインにとって最大のテック投資の成功例は、ティールのヴァラー・ベンチャーズへの投資を除けば、暗号資産取引所コインベースへの出資だったようだ。司法省が開示したメールによれば、エプスタインは2014年、コインベースの評価額が4億ドル(約628億円)の時点で300万ドル(約4億7000万円)を投資していた。資料からは、2018年に自身の持ち分の半分を暗号資産ファンドのブロックチェーン・キャピタルに1500万ドル(約24億円)で売却していたことも明らかになった。コインベースは2021年に上場し、現在の時価総額は490億ドル(約7.7兆円)に達している。
エプスタインの遺族が、残りの半分の持ち分を新規株式公開(IPO)まで保有していたかどうかは不明だが、もしそうであれば、その価値は2019年の彼の死から2年後に行われたIPO時点で約3000万ドル(約47億円)になっていた計算になる。
この利益率の高い取引を仲介したのは、元子役で暗号資産投資家のブロック・ピアースだった。当時、ピアースはBlockchain Capitalで活動していた。資料と、暗号資産ニュースサイトProtosによる最初の報道によれば、エプスタインは2011年のカンファレンスでピアースと出会い、その後7年にわたり、女性の話題や投資、ポピュリスト系論客スティーブ・バノンといった知人への紹介についてメールを交わしていた。最新のエプスタイン関連文書に含まれる2018年12月のメールの1つでは、ピアースがエプスタインをアンティグア島に招き、「ウクライナ最高の女性たちが乗ったボート」を用意すると誘っていた。ピアースはコメント要請に応じなかった。
経営破綻したJawboneに出資し、約16億円の損失を出す
資料によれば、エプスタインはJawboneにも出資していた。フィットネストラッカーやヘッドセットを手がけ、2017年に経営破綻した企業だ。司法省が公開した投資関連文書でエプスタインは、同社の「主要投資家」と位置づけられており、1000万ドル(約15億7000万円)の投資を全額失ったことが示されている。2018年8月、共同創業者でCEOのホセイン・ラーマンとの緊迫したメールのやり取りの中で、エプスタインは資金の返還を迫っていた。
エプスタインは、「話は単純だ」と書いている。「あなたには支払う責任がある。もし今、あなたに1億ドル(約157億円)以上の資産があるのなら、私は間違いなく、あらゆる手段を使って、あなたが私から受け取った資金を取り戻しにいく」。これに対し、ラーマンは「私は、前の事業を運営する中で自分が過ちを犯したことを全面的に認める。その過ちから、多くの苦い教訓を学んだ。だが、それらは決して意図的なものではなく、あなたに対して過去の投資について誤解を与えたという指摘には同意できない」と返信した。ラーマンもまた、コメント要請に応じなかった。
伊藤穣一運営のネオテニーにも投資──自身とエプスタインとの関係について謝罪
性犯罪で失墜した金融業者エプスタインの資料には、彼が複数ベンチャーファンドに投資していたことが見えてくる。その中には、伊藤穣一が運営していた小規模ファンド「ネオテニー」も含まれているようだ。伊藤は、マサチューセッツ工科大学(MIT)傘下の研究機関メディアラボの所長を務めていたが、2019年米誌ニューヨーカーがエプスタインが同ラボに数百万ドル(数億円)を寄付していたことを報じた。その後、伊藤は役職を辞任した。伊藤とネオテニーはメールでの取材要請に応じなかったが、伊藤は2019年、自身とエプスタインとの関係について公に謝罪した。


