欧州

2026.02.06 15:15

スウェーデン医療現場からみた日本医療、過剰受診と配分の歪み。どうする安心担保

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日本の医療費システムが内包する構造的問題

日本の医療費システムには、複数の構造的課題が内在している。ここでは主な問題を2つ取り上げる。

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1. 高齢者の低額負担と生活保護者の無料受診が招く過剰受診

高齢者は医療費1割負担、生活保護者は原則無償で受診できる。このため、症状が軽くても医療機関を受診するハードルが低く、受診回数が増えやすい。

実際、日本の国民一人当たりの外来受診回数はOECD諸国で韓国に次いで2番目に多い水準にある(図:OECD)。

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図:OECD
図:OECD

さらに日本の診療報酬制度は出来高払いが基本であるため、医療機関側にも診療件数を増やすインセンティブが働く。患者は「安く受診できる」、医療機関は「診療件数が増える」━━双方にとって都合の良い構造が、結果として過剰な医療利用を招いている。

2. 診療報酬水準の低さによる資源配分の歪み

長時間・手間のかかる重症患者や高度医療ほど採算が取りにくく、医療機関は比較的軽症者の診療で収益を確保しようとする傾向が強まる。結果として、医療資源が本来必要な重症患者や高度医療に十分配分されにくくなる。診療報酬を一律に引き上げても、この構造自体が変わらなければ、医療費だけが膨らむリスクが残る。

これらの問題は、日本の医療費制度が抱える課題の一端にすぎない。しかし、患者の受診行動、医療提供者のインセンティブ、そして政治的な制約が複雑に絡み合うことで、制度の非効率性が固定化されている現状を象徴的に示している。

医療費の抑制と医療の質をどのように両立させるのかという問いに対し、仮に両立を本気で目指すのであれば、スウェーデンのように医療へのアクセスに一定の制約を設けるという選択肢は避けて通れない可能性がある。しかし、誰もが自由に医療機関を受診できることを前提として発展してきた日本の医療制度の歴史や、これまで形成されてきた社会的合意を考えれば、こうした方向性を実際の制度改革として実現するハードルは極めて高い。

結局のところ、どのような公平性を優先するのか、限られた社会的資源をどこに配分すべきなのかという問いには、いまだ明確な答えはない。日本の医療制度は、その価値判断そのものを社会全体で問い直す段階に来ている。

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文=宮川絢子

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