1972年にアポロ17号が月を離れて以来、人々は「なぜNASAは月を再訪しないのか」と問い続けてきた。「月の裏側にエイリアンが都市を造っている」「未知の病原体の存在をNASAが隠蔽している」「実はNASAは月に行っていない」など、さまざまな陰謀論やファンタジーがその理由として語られてきた。
ただし、これらはエンターテインメントとしては魅力的だが、事実ではない。米国が月に行くときも、行かないときにも、そこには「予算」と「覇権」と「財政政策」が関係している。
月に行かなかった理由
米国が258億ドル(約4兆円、1ドル155円換算)という莫大な予算をアポロ計画につぎ込んだのは、月に行くこと自体が目的ではなく、主にはソビエトより先に米国人を月に立たせるためだった。米国人を月面に立たせることで米国は、自国の科学技術の優位性を証明するとともに世界へのリーダーシップを示し、宇宙の覇権を手に入れようとしたのだ。当時の258億ドルは今日の価値に換算すると2800億ドル(約43兆4000億円)におよぶ。
米国民は、自国の科学技術はソ連に勝ると信じていた。しかし1957年、ソビエトがスプートニクを打ち上げるとその認識はくつがえされ、宇宙から原爆が落ちてくる可能性に脅えた。その後もソビエトはガガーリンを地球周回軌道へ投入し(1961年)、女性宇宙飛行士テレシコワを打ち上げ(1963年)、レオーノフを宇宙遊泳させる(1965年)など、宇宙開発における「史上初」を次々に成し遂げ、その間、米国は辛うじてその後を追う状態が続いた。
この状況を覆そうとケネディ大統領は、月へ行く選択をした。すると国民もこれを支持。その結果、1969年にはアポロ11号の2人が月面に降り立った。しかし、その偉業が成し遂げられると、国民の宇宙に対する関心は急速に冷めていった。



