宇宙

2026.02.04 17:00

アメリカが月を54年間再訪しなかった理由と、いま月を目指す理由 アルテミス計画の真の狙い

Space Launch System (c)NASA

この時期、NASAの予算の多くは、ISSの建設とスペースシャトルの維持、またはハッブル(1990年打ち上げ)に費やされていた。その間、月への再訪と有人火星探査を目指す「コンステレーション計画」も進められたが、当時のNASAにこれを維持する余力はなく、2010年にオバマ政権が中止を決定。こうして米国は、月からさらに遠ざかっていった。しかし、その資産は「アルテミス計画」に引き継がれていく。2017年、トランプ大統領が「宇宙政策指令1」に署名すると同計画が立ち上げられ、米国は再び月と、その向こう側にある火星を目指すことになった。

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トランプが月を目指す理由

アルテミス計画が始動したころ、米国の脅威は中国に転じていた。中国は2003年に有人宇宙船「神舟5号」の打ち上げに成功し、2022年には宇宙ステーション「天宮」を完成させた。そして2030年には有人月面探査を予定し、2035年までには月面基地(ILRS)を完成させる予定だ。こうした中国の動きに対し、トランプと米議会は露骨に警戒感を示している。つまり、米国がアルテミスで月を目指す理由としては、中国に対する「危機感」と宇宙における「覇権」が根底にある。

また、トランプ政権はアルテミス計画を財政政策の一環として捉えている。同計画では、人員輸送機、無人輸送機、宇宙服、月面ローバーなど、多岐にわたる機材が在米企業から調達されている。NASAはその開発企業を入札制度で募り、選定した企業には一定額の補助金を供給する。完成した機材は開発企業が主体となってみずから運用し、そのサービスをNASAが購入することで民間企業の事業を成立させる。民間企業によるこうした収益構造が確立されれば、米国の宇宙産業は競争力を増し、持続性が高まるはずであり、米国内経済の活性化や、NASAのコスト圧縮も期待できる。つまり米国が積極的に月を目指すのは、こうした民間提供サービスをベースとした、新たな形態の公共事業を確立するためでもある。

月着陸機としてNASAから選定を受けているスペースXのスターシップHLS (c)SpaceX
月着陸機としてNASAから選定を受けているスペースXのスターシップHLS (c)SpaceX

ただし、近年ではこれら事業者の開発遅延が問題視されている。アルテミスIIIでクルーを月面に送迎するスペースXのスターシップHLSは、その開発の遅れから代替機の新規入札が検討されはじめた。また、アルテミス計画の一環とされる月面への物資輸送サービス(CLPS)では、無人輸送機の打ち上げを予定する5社において、当初スケジュールを維持する業者はひとつもない。この状況に対してOIG(NASA監察総監室)や一部の議員からは、その原因は事業者だけでなく管理体制に問題があるとの指摘もあり、NASAにおける大きな課題とされている。

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編集=安井克至

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