今だからこそ伝えたいこと
小学校の教室で、私は子どもたちから一生の宝物となる教訓を教わりました。それは、大人が「可哀想だ」「何もできない」と嘆いている間も、子どもたちは「どうすればできるか」を考え、小さな隙間から喜びを見つけ出す天才だということです。
心理的安全性:負の感情も受け止める勇気
この絵本には、当時の子どもたちの切実な本音を詰め込みました。「友達とくっつきたい」「給食を喋りながら楽しく食べたい」。こうした「当たり前の欲求」さえ許されなかった日々、彼らの心には行き場のない澱(おり)が溜まっていました。
こうした負の感情を、安心して吐き出せる環境こそが、今の時代に最も必要な「心理的安全性」です。私たち大人がすべきことは、安易な励ましや解決策の提示ではありません。「そうだよね、辛かったよね」とお子さんの「やりきれない思い」を否定せずにそのまま受け止めること。その「心の安全基地」があるからこそ、子どもは安心して外の世界へ挑戦し、失敗から立ち上がる勇気を持てるのです。
レジリエンス:ビニール袋が生んだ「逆境に負けない心」
制限だらけの修学旅行や、中止になった行事。確かに失ったものは大きいですが、腕にビニール袋を巻いてまで挑んだ腕相撲に象徴されるように、子どもたちは着実にレジリエンス(回復力)を育んできました。
ビジネスの世界でも注目されるこの力は、決して「折れないこと」ではありません。「折れても、そこからしなやかに戻る力」です。思い通りにいかない状況を嘆くのではなく、与えられた条件の中で最適解を見つけ、楽しみに変えていく力。それは、AI時代や予測不可能な社会を生き抜くために必要な、最強の知性となります。
数値化できない「生きる力」を信じる
親として、つい目に見える「学力」や「結果」を急いで求めてしまうこともあるでしょう。しかし、あのビニール袋の腕相撲で育まれた「非認知能力」――自分を信じ、他者と繋がり、困難を楽しむ力――こそが、お子さんの人生を一生支え続ける土台となります。
親御さん、どうか「あの時、もっとこうしてあげればよかった」と自分を責めないでください。制限の中で工夫し、笑い合ったあの日々は、決して失われた時間ではありません。むしろ、逆境の中で自ら光を見つける練習をしていた、尊い時間だったのです。
あの日々を「可哀想な時期」として終わらせるか、「大切なことを学んだ時期」として未来へ繋げるか。それは、私たち大人の眼差しにかかっています。
もし、お子さんが壁にぶつかっているのなら、どうか一緒にあのビニール袋の腕相撲を思い出してください。正解のない場所でも、人は必ず光を見つけることができます。
「あの時、あんなに工夫して笑い合ったね」 その一言が、子どもたちが一生を生き抜くための、揺るぎない自信の種になると信じています。
松下隼司(文)◎大阪府公立小学校教諭、令和4年度文部科学大臣優秀教職員表彰。著書に、絵本『せんせいって』『ぼく、わたしのトリセツ』、教育書『先生を続けるための「演じる」仕事術』など。日本最古の神社、大神神社短歌祭で額田王賞を受賞。令和6年度版教科書編集委員
オクダサトシ(絵)◎映像作家、絵描き、役者ほかコンドルズのメンバーで出演、映像を担当/・野田地図『パイパー』、ジェローム・ベル『Gala』、山田洋次監督『家族はつらいよ2』、前田哲監督『そして、バトンは渡された』などに出演。goen°ではMr.Childrenなどのアフタートーク、うみのもりでは、障害者の身体表現に関わる。ZINE絵本『WALKING』『UP AND DOWN』『ISLAND』『てっとう』


