──関税コストは国内の業者などが負っていると、みなされているのですね。
スティーブン・エンリケス:米政権は、急激なインフレは起こっていないと主張する。値上げに慎重なCEOがいることを考えると、確かに一理ある。だが、バナナやコーヒーは(25年11月14日に米政府が相互関税の一部撤廃に踏み切っていなければ)、消費者が引き続き負担を余儀なくされていただろう。
ソネンフェルド:CEOらは、インフレの悪化を予想している。彼らが利下げを懸念しているのは、そのためだ。トランプが米連邦準備制度理事会(FRB)に利下げを迫り、圧力をかけたことで、「FRBの独立性が損なわれた」と考えるCEOは71%だ。
次は投資に関する質問だ。トランプが相互関税を打ち出した「解放の日」(25年4月2日)以降、「国内の製造業・インフラへの投資を増やしていない」と答えたCEOは62%に上る。彼らは「不確実性」ゆえ、投資に二の足を踏んでいる。5日後に何が起こるかわからない状況で、5~10年がかりの投資などできないという。
CEOらは、コスト削減最優先の「オフショアリング」ではなく、インドやベトナムなど、米国の友好国に生産拠点を移す「フレンドショアリング」により、中国国外で製造業を多様化している。米製造業の全面的な国内回帰はみられない。
CEOらは、毛沢東主義的な米国版「国家資本主義」にも懸念を募らせている。
まず、日鉄のUSスチール買収に伴い、米政府がUSスチールの「黄金株」を保有したことだ(注:米政府は同社の経営の重要事項に拒否権を行使できる)。
また、米政府が米インテルへの出資で、同社株式の約10%を取得したこと。そして、米半導体大手のエヌビディアとアドバンスト・マイクロ・デバイセズに対し、米政府が対中輸出の許可と引き換えに、売り上げ高の15%を得ること、などだ。
CEOらは、こうしたトランプ政権の動きを「社会主義的」とし、自由市場の競争と官民セクターの分離(という資本主義の原理)に反すると、懸念を示している。
また、政権を最も支持しているのは米テック業界だが、テック大手7社の「マグニフィセント・セブン」銘柄の株価総額が(S&P500全体の時価総額の)約3割を占めているのも問題だ。
──米国のCEOらは現在、どのような状況にあるのでしょうか。
ソネンフェルド:トランプ大統領の報復を恐れ、何も言えない。多くの米業界団体は、かつて公の場で彼に反論したが、トランプは企業を名指しで攻撃する。企業が単独で歯向かうと、高い代償を払うことになる。
第1次トランプ政権下で大統領に立ち向かった米経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」も、現在は沈黙を守っている。


