ミラノ冬季五輪が映し出す放送の未来 AIとクラウドが変える視聴体験の全貌

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インフラの刷新〜持続可能性と効率の追求が生むイノベーション

こうした一見、派手な映像体験の裏側で、放送インフラの劇的なスリム化とクラウド化も同時進行している。コスト削減と環境負荷低減という、現代の五輪が直面する最重要課題に対する、技術的な回答である。CEOは「我々は実現性、エンゲージメント、効率性という3つの原則に基づき技術を活用している」と語り、技術革新の目的が単なる高度化だけでなく、持続可能な運営の実現にあることを示唆した。

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従来、五輪中継現場には、巨大な中継車が何台も並び、大量のケーブルと電力、そして人員を必要とした。しかしOBSは、そのモデルを「仮想化されたプライベートCOTSクラウドインフラ」へと移行させる。CEOは「バーチャル中継車(Virtual OB Vans)を導入し、従来の大型トラックを利用せず、IP技術とクラウドを使用、電力消費を減らし、機材の輸送を減らし、セットアップ時間を短縮する」とそのメリットを説明している。

このバーチャル中継車の導入効果は大きい。物理的な中継車を汎用的なキャビンとクラウドシステムに置き換え、放送エリアのスペースは50%以上削減、電力消費も最大50%削減される。特に、カーリング、スライディングスポーツ、スピードスケートといった競技では、この仮想化技術によってリモート制作が可能となり、現地に持ち込む機材と人員を最小限に抑えつつ、最高品質の放送を実現する体制が整えられているという。

放送の中枢であるマスターコントロールルーム(MCR)においても、完全なクラウド化の実証が進んでいる。OBSのテストデータによれば、2026年のダカール・ユース五輪に向け、ラックスペースを75%、電力消費を65%削減し、国際放送センター(IBC)の展開速度を50%向上させるという成果が示されている。 

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CEOは「ミラノ大会では、信号の65%がクラウド経由で送信される。当初は25%程度と予想していたが、パンデミックを経て採用が加速した」と述べ、クラウド化の急速な浸透を明らかにした。

こうした技術革新は、ミラノ・コルティナを経て、2028年のロス五輪ではさらに進化、さらなるスペース削減(約40%)と電力削減(約30%)を見込んでいるという。これらの積み重ねにより、ミラノ・コルティナにおけるIBCの占有面積は、2022年北京大会と比較し25%縮小、総電力要求量は33%削減される見通し。CEOは「ロス五輪では、IBCの専有面積はリオ五輪の半分のサイズになる予定だ」という。放送技術の進化が、五輪のサステナビリティ化に大きく貢献している事例となる。

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文=松永裕司

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