経済・社会

2026.02.04 13:30

米中関係を予測する「3つの罠」:地経学研究所の一葉知秋

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中国の台頭に示されるような、急速なパワー・バランスの変化にどのように対応するかを論じた「ツキディデスの罠」と「チェンバレンの罠」とは異なる、「キンドルバーガーの罠」という見方がある。

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「キンドルバーガーの罠」とは、戦間期の国際関係を分析したアメリカの経済史家のチャールズ・キンドルバーガーが、この時代の国際秩序の不安定化の原因として、イギリスはその意図がありながらも能力が欠如し、アメリカはその能力がありながらも意図が欠如していたことで、いかなる大国も国際公共財を提供することができなかったことを示した、歴史の教訓である。アメリカの国際政治学者のジョセフ・ナイ教授は、アメリカが国際社会でのリーダーシップを放棄することで、「キンドルバーガーの罠」によって、国際秩序の不安定化、さらには戦争勃発の可能性に帰結するリスクを指摘した。

果たして、この「3つの罠」のうちで、どのような見方が最も説得的であり、最も現実に近いのであろうか。

「ツキディデスの罠」を回避するには米中間の交渉や和解が必要となり、「チェンバレンの罠」を回避するには対中抑止力の強化が必要となり、「キンドルバーガーの罠」を回避するにはアメリカのリーダーシップの回復が必要となる。現代世界における問題、このいずれも実現が容易ではない。

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日本においてはこれまで「ツキディデスの罠」による米中衝突を恐れて、中国に対する宥和や譲歩を好む声が大きかった。だが、現在の第二次トランプ政権において勢力圏分割の発想から、台湾有事や尖閣有事の際に介入を控えることが懸念されている。「チェンバレンの罠」である。いかなる大国も国際秩序を擁護する上での指導的な役割を担わない戦略環境の中で、日本は長期的な視野から、最適な対中戦略を考案せねばならない。


細谷雄一◎地経学研究所 欧米グループ・グループ長。立教大学法学部卒業、英国バーミンガム大学大学院国際学研究科修了、慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。北海道大学、敬愛大学講師、プリンストン大学客員研究員、パリ政治学院客員教授などを経て現職。慶應義塾大学法学部教授。複数の内閣諮問機関を歴任。

文=細谷雄一

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