宇宙

2026.02.03 15:15

中国が「地球と月の時刻を同期」するソフト開発、月面経済国際化の一助たるか

Adobe Stock

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中国は、地球と月の時刻を同期させる世界初の「即用型」ソフトウェアを発表した。将来の月面航行や月面居住の基盤になり得る技術だと、研究者たちは述べている。開発を担ったのは中国・紫金山天文台の研究チームで、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙によれば、このシステムは重力そのものが引き起こす、見過ごされがちだが重大な問題に対処するものだという。

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このソフトウェアは「LTE440(Lunar Time Ephemeris、月暦(天体暦) )」と呼ばれ、月と地球では時間の進み方が異なるという物理的事実を補正するために設計されている。月の重力は地球より弱いため、月面の時計は地球の時計よりも1日あたり約58.7マイクロ秒速く進む。この差は一見するとごくわずかだが、信号の伝播時間を極限の精度で測定して位置を割り出す宇宙航行の分野では、このズレが深刻な問題となる。

現代の航法システムは、GPSに類似した時刻精度に依存している。わずかな時間のズレでも、位置計算では数キロメートル規模の誤差に拡大し、着陸失敗や軌道計算ミスのリスクを高めてしまう。月探査が長期化し、回数や複雑さが増すにつれて、こうしたマイクロ秒単位のズレは急速に積み重なっていくのだ。

LTE440ソフトウェアは、相対論的効果に加え、月が宇宙空間を移動することによる影響も考慮している。月の軌道や重力の影響に関する高精度なデータを解析し、月の時間が地球の時間からどの程度ずれていくのかを自動的に算出し、両者を常に同期させる。研究チームによると、このシステムは1000年先まで見据えても、ナノ秒単位の精度を維持できるという。

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こうした精度の高さは、近年高まりつつある国際的な課題に直接応えるものでもある。2024年、国際天文学連合(IAU)は、複数の国が月面や月周辺で活動する時代を見据え、混乱を避けるための統一された月の時刻基準システムの導入を求める決議を採択した。この基準を導入するために、従来は各国の宇宙機関が複雑な手計算を個別に行う必要があった。

初期の月探査ミッションでは、月面での活動時間が短く、実施回数も限られていたため、こうした「時間のずれ」はほとんど問題視されてこなかった。しかし、こうした考え方はもはや通用しない。今後計画されている月面基地やロボットネットワーク、航法衛星の運用には、地球と月の間で厳密に同期した時計が必要不可欠となる。

研究者らはLTE440を、完成したシステムというよりは基盤技術として位置づけている。現時点ではリアルタイムの航法ネットワーク向けに直接対応する設計ではないものの、将来の月面インフラを支える時計システムの土台を築くものだという。とりわけ注目されるのが、このソフトウェアが「一般公開されている」点で、一部のアナリストは、拡大しつつある「月面経済」に向けた国際標準の形成を主導する狙いがあると見ている。

NASAのアルテミス計画や中国の月面基地構想が加速するなか、重要になるのは技術力だけではなく、各国間の調整だ。重力が時間そのものを歪める宇宙空間では、正確な現在時刻を共有することが、位置情報を把握するのと同じくらい重要になる可能性がある。

なお、この新ソフトウェアの詳細は、学術誌『Astronomy and Astrophysics』に掲載された。

※本稿は英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」の記事からの翻訳転載である。

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