クラフトはトレンドで終わらない 今人が求める「贅沢」とは

「suzusan – Colors in mind」では、絞り染め制作のプロセスも展示された

──近年、世界的にものづくりやクラフトへの注目が高まり、ラグジュアリーブランドもそこに光を当てる展覧会を開催するなどしています。するとトレンドとして消えていかないかという懸念もありますが、昨今の動向をどのように見ていますか?

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村瀬:この7年間、毎年トランクショーのためにサンフランシスコを訪れているのですが、以前ラグジュアリーブランドの店舗が立ち並んでいた通りが、空き店舗だらけになっていました。

ビッグテックのお膝元で超富裕層も多い街ですが、そこで残っているのは、メイド・イン・サンフランシスコのもの、僕たちのように他の地域にルーツがあるものなど、地域性や人間性が伝わるものやブランドです。

ラグジュアリーブランドには世界に発信する力やブームを生む力が確かにありますが、クリエイティブディレクターが頻繁に変わって、新しいものに価値があるという発信に、社会がもう追いつけない、追いつかなくてもいいと感じているのかもしれません。

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和光本店 地階「アーツアンドカルチャー」
和光本店 地階「アーツアンドカルチャー」

庭崎:私は1日1度は和光の店内を歩くようにしてるのですが、すると必ずつくり手の方に出会います。ジュエリーデザイナー、テイラー、工芸の先生……彼らと話をするたびに思うのは、つくり手の思いを直接聞くことこそ、贅沢であるということです。

例えば村瀬さんから有松の話を聞いて買ったお洋服は、より大切にしたいと思います。こうした体験は、大規模な展開をしているブランドにはなかなか提供できないこと。ですが、それを楽しむ方々が増えていると感じています。

村瀬:今年のサンフランシスコでは初めて出張ワークショップを開催したのですが、参加費ひとり650ドル(約10万円)となかなかの金額ながら、定員の12席があっという間に埋まりました。

テック企業に勤める方々が大半を占めた参加者と一緒に手を動かして、想像もしていなかったものができた感動を分かち合う。皆さんすごく喜ばれて、そこから一緒に物をつくるコミュニティまで生まれました。ブランドがパリで華やかに行う15分間のファッションショーよりも、少人数で5時間一緒にものをつくる場の方がよっぽど価値がある気がします。

2025年のアメリカの小売業店舗閉鎖数は約1万5000店に達すると見込まれているようです。指先だけの簡単な操作ですぐに物が届く現代においては、便利なだけでは人の気持ちは動かなくなっているのでしょう。

庭崎:和光には「AMAZING WAKO」という言葉があります。思いがけない出会いや驚きこそが店に行き、買い物をする醍醐味だと思っています。

村瀬:UberやWaymo、その他AIも、サンフランシスコには常に世界の数年先の標準があります。それらの広がりを見てきて思うのは、正確で効率的なものが溢れた社会に、非効率なもの、失敗できることを持ち込むとものすごい価値になるということ。人とのつながりや手触りに価値を置く動きは、一時のトレンドではなく、社会全体に広まって定着していくのではないでしょうか。

庭崎:そうですね。ファッション、フード、あらゆる業界でクラフトが注目されていますが、私は今後もクラフトが盛り上がるというより、アイテムやブランドの背景にある思いやストーリーに心が惹かれる人が自然と増えていくのだと感じています。

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文=守屋美佳 写真=若原瑞昌 編集=鈴木奈央

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