映画

2026.01.27 15:00

年間予算約2.8兆円を投入、「ネトフリ」作品の最終決定権を握る“ストリーミングの女王”とは?

2025年11月5日、Netflixの「The Beast in Me」プレミア上映イベントに参加した同社CCOベラ・バジャリア(lev radin/Shutterstock.com)

スポーツの生中継やライブ配信へ領域を広げ、新たな視聴者層の獲得を目指す

ライブ配信への本格参入を進めるネットフリックスは2024年、ボクシング界の伝説マイク・タイソンとインフルエンサーのジェイク・ポールによる対戦を生中継した。この試合は、その年「最も退屈だった試合」とも酷評された。全盛期のタイソンであれば、27歳のポールを一方的に圧倒していたはずだが、58歳となった彼はこの日、息を切らしながら耐えしのぐ展開となった。

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だが、視聴データは別の現実を示した。この一戦は世界で約1億800万人がライブ視聴し、ピーク時には約6500万人が同時に画面を見つめた。ストリーミングを通じたスポーツ中継として、史上最多の視聴者数を記録したのだ。1カ月後、ネットフリックスが配信したNFLのクリスマス当日2試合は、米国内で6500万人が視聴し、米国史上、最も多く視聴されたNFL中継2試合となった。

スポーツは確実に視聴者を呼び込むという現実を踏まえ、資金を投入

もっとも、こうした成果は相応の投資なしには生まれない。バジャリアのもとで、ネットフリックスは放映試合数がごく限られているにもかかわらず、NFLに年間1億5000万ドル(約231億円)を支払ったと報じられている。それでも彼女の判断は揺るがない。スポーツは確実に視聴者を呼び込む。その現実を踏まえ、バジャリアは資金を投じている。

「ネットフリックスは、コンテンツの価値を正しく評価している」と語るのは、NFLコミッショナーのロジャー・グッデルだ。両者は長年にわたり提携の可能性を協議してきたという。「ベラ自身がスポーツ好きで、NFLのコンテンツがプラットフォームにもたらす効果を理解していた」。

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バジャリアのもとで、視聴者が好きなタイミングで作品をイッキ見する体験を軸に成長してきたネットフリックスは、ライブ配信分野にも本格的に踏み込んでいる。先日は、リアルタイムで視聴者投票を行い、勝者を決める参加型番組『スター・サーチ』リバイバル版の配信も始まった。2027年FIFA女子ワールドカップの米国での独占放映権も獲得した。

F1への関与も、その姿勢を象徴している。バジャリアは、ネットフリックスが2026年シーズンのF1中継権への入札を検討していると報じられる以前から(最終的に中継権は、5年総額7億5000万ドル(約1155億円)でアップルが獲得した)、2019年にドキュメンタリーシリーズ『Formula 1: 栄光のグランプリ』の制作を決断していた。それまでF1ドライバーは、視聴者にとって存在感の薄い記号のような存在だったが、この作品は彼らを物語の中心人物へと押し上げた。

競技の舞台裏を描くドキュメンタリーを制作し、スポーツ界に数千億円規模の商業的価値を生む

「我々の強みは、スポーツそのものを中継することではなく、物語として伝えることにある」とバジャリアは語る。「F1の場合も、レース中継よりも『Formula 1: 栄光のグランプリ』のほうが、長期的には大きな価値を生んだ。それこそが、我々の仕事だ」。

F1に新たなファン層を呼び込み、競技全体の商業的価値を押し上げたこのシリーズは、結果として数十億ドル(数千億円)規模の価値を生み出した。

ネットフリックスは、ドキュメンタリーシリーズを通じて、米国では必ずしも主流ではなかったF1という世界的スポーツに視聴者の関心を向けさせた。一方でバジャリアは、それとは逆のアプローチも取っている。すでに世界最大級の人気を誇る米プロレス団体WWEの試合の中継を、10年総額50億ドル(約7700億円)という大型契約で獲得したのだ。

「WWEは世界各地で放送されてはいたが、真にグローバルな形で届けられていたわけではなかった。そこに大きなチャンスがあった」と彼女は語る。ネットフリックスにおいては、世界中の視聴者に向けて、さまざまな形式のコンテンツを丁寧に届けることが何より重視される。

サッカー界のスター、デビッド・ベッカムは、自身の人生とキャリアを描いた全4話のドキュメンタリーについて、「とにかく急いで配信しようという姿勢ではなかった」と振り返る。彼によれば、フィッシャー・スティーヴンスが監督を務めたこの作品は、「あらゆる要素をきちんと仕上げる必要があった。完成のタイミングを何より大切にした」という。結果としてこのシリーズはエミー賞を受賞し、32カ国で視聴ランキングの首位に立った。妻で元スパイス・ガールズのヴィクトリア・ベッカムを主人公にした全3話の続編シリーズも生まれた。

ポッドキャスト分野でスポティファイと提携、YouTubeとの直接競争に踏み出す

ネットフリックスとワーナー・ブラザースが統合した場合、映画の劇場公開やテレビ番組のライセンス展開といった従来の路線は基本的に維持され、大きな混乱は起きにくいとみられる。現時点では、ネットフリックス自身が、大手スタジオを保有していないためだ。

だがバジャリアは、統合の行方を待たず、次の成長分野に切り込んでいる。2025年、ネットフリックスはスポティファイと提携し、2026年初頭からスポティファイ・スタジオやThe Ringerが制作するビデオポッドキャストを配信する計画を打ち出した。iHeartMediaも、自社のビデオポッドキャストの一部、あるいは全部をネットフリックスにライセンス供与する協議を進めていると報じられた。これが実現すれば同社は、月間10億回以上の視聴数をビデオポッドキャストから得ているYouTubeと直接的に競合する。

フォーブス『世界で最も影響力のある女性100人』で順位を上げ続ける中でも、バジャリアは、とりわけリスクを恐れない姿勢を保っている人物だ。

2025年4月、ニューヨークのパリス・シアターで行われたドラマ『YOU ー君がすべてー』最終シーズンのプレミア上映が行われた。その舞台裏で彼女は、米国のケーブルテレビ局「ライフタイム」が製作したこの作品の世界配信権をどのように獲得し、米国外でネットフリックスのオリジナルとして展開したのかを語った。ライフタイムがこのドラマの製作を、シーズン1の終了後に断念した後、同社がどうやって自社のオリジナル作品としてグローバルで再出発させたのかを説明した。そして話を終えると、彼女はそのままステージへと向かった。

バジャリアは今、ハリウッドの次の時代を切り開こうとしている。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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