映画

2026.01.27 15:00

年間予算約2.8兆円を投入、「ネトフリ」作品の最終決定権を握る“ストリーミングの女王”とは?

2025年11月5日、Netflixの「The Beast in Me」プレミア上映イベントに参加した同社CCOベラ・バジャリア(lev radin/Shutterstock.com)

インド系移民の娘として育ち、自分の人生をコントロールするためにお金の力を知る

バジャリアが生まれ持つリスクを恐れない姿勢は、ハリウッドのきらびやかな中心地からはほど遠い、自身の原点にさかのぼる。インド系移民の家庭に生まれた彼女は、安定と機会を求める家族とともに、ロンドンからザンビアへ、そして再び別の土地へと大陸をまたぐ移動を繰り返す幼少期を過ごした。1979年、父親は一家をロサンゼルスに移し、アメリカンドリームをつかもうと洗車場の事業を立ち上げた。

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当時9歳だったバジャリアは、ロサンゼルスで強烈なカルチャーショックを味わった。「インド人であることがどういう意味を持つのか、分からなかった」と彼女は振り返る。周囲に溶け込むため、彼女はテレビに親しんだ。『かわいい魔女ジニー』『ゆかいなブレディー家』を見て英語のアクセントを矯正し、アメリカ文化を学んでいった。

こうした番組を通じて、物語が人と人を結びつける力を持つことを知り、少しずつ自分の居場所を見つけていった。同時に、自分の人生を自分で決めたいという思いが生まれてきた。バジャリアの曾祖母世代は14歳で結婚を強いられ、誰と結婚するかを周囲の人に決められていた。「私は、自分で人生の選択をコントロールするためには、お金を持つことが必要だと早くから気づいていた」と彼女は語る。

ロサンゼルスでそれを実現する道は、エンタメ業界に進むことだった。1995年にカリフォルニア州立大学ロングビーチ校を卒業したバジャリアは、CBSの映画・ミニシリーズ部門でアシスタントとして働き始めた。「周囲のすべての人が私のメンターだった。皆それに気づいていなかったけれど」と彼女は言う。彼女はデスクに回ってくるすべての脚本に目を通し、幹部のコメントも読み込んだ。

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そうした姿勢は周囲の目にも留まり、26歳のときに、退任を控えた幹部から後任として推薦される形で昇進を果たした。「まさか自分の仕事ぶりをそこまで見てくれているとは思わなかった。『彼女に私の仕事を任せてほしい』と言われたときは、本当に嬉しかった」。

業界慣習に従うことを拒んで解雇された経験が、リスクを恐れない姿勢につながる

CBSで15年を過ごし、社内のケーブル向けスタジオを率いるまでに昇進したバジャリアは、その実績を買われ、NBCエンターテインメントに招かれた。NBCの社内スタジオを「ユニバーサル・テレビジョン」として再編し、立て直す役割を託されたのだ。それは、主要テレビスタジオを統括する立場に就いた、史上初の有色人種の女性でもあった。バジャリアは、これまでNBCが見送ってきた企画を次々と制作し、他局や配信サービスに売り込んでいった。しかし5年後、彼女は解雇された。その理由についてバジャリアは「業界の慣習を受け入れることを拒んだからだ」と言う。

「自分に問い直せば、ビジネスとして正しい判断をしたと確信できた。社内外の力学や立場への配慮から、間違っていると思う決断を下すことはしなかった」。

現地文化を理解するクリエイティブ幹部を配置し、世界規模のスタジオを構築

家族で計画していたタンザニアへのサファリ旅行で気持ちを整理した後、バジャリアは、当時ネットフリックスの最高コンテンツ責任者だったテッド・サランドスに連絡を取った。彼は以前、「次の仕事を決める前に必ず自分に相談するように」と彼女に伝えていたからだ。バジャリアの仕事を評価していたサランドスは、ネットフリックスでノンフィクション作品とライセンス部門を統括する役割を提案した。「私は思わず、『ありがたいオファーだけど、やったことがない仕事ばかりね』と言った」と彼女は振り返る。するとサランドスは、「賢い人を雇うだけだ。あとは自分で分かるようになる」と返したという。

実際、彼女はその仕事をやり遂げた。サランドスはフォーブスにこう語る。「彼女は、ネットフリックスを本当に理解しようと、時間とエネルギーを惜しまなかった。何が機能しているのか、なぜうまくいくのか。誰が何をしていて、どうやってそこにたどり着くのか。この業界ではとりわけ難しい、人間関係を築く力を、彼女は身に付けていた」。

2年もたたないうちに、バジャリアは海外コンテンツの統括も任され、ネットフリックスを名実ともにグローバルなスタジオへと変えていった。「我々が成功してきた理由は、現地の言語を話し、その文化を理解し、実際にそこに暮らすクリエイティブ幹部を配置してきたことにある」とバジャリアは語る。

業界のルールに縛られない姿勢を貫き、『イカゲーム』を成功に導く

その取り組みの1つから生まれた大ヒット作が、2021年9月にネットフリックスで配信が始まった韓国ドラマ『イカゲーム』だ。脚本・監督のファン・ドンヒョクは、その12年前に映画用の脚本を書いていたものの、企画は実現しないまま眠っていた。ネットフリックスの韓国チームがその可能性に着目し、彼とともに連続ドラマとして作り直したことで、作品はようやく世に出た。

「我々は業界のルールを破ってはいないと思う。そもそも、ルールを前提にしていないだけだ」とバジャリアは語る。『イカゲーム』は翌年、エミー賞で6部門を受賞した。

「ネットフリックスは、気に入った企画があれば、迷わず形にする」と語るのは、アカデミー賞受賞歴を持つプロデューサーのブライアン・グレイザーだ。彼は『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』や『tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』などの複数の作品でネットフリックスと仕事をしてきた。「『アルゴリズムを確認してから返事をする』なんて言われたことはない」。

バジャリアがキャリアを重ねる一方で、サランドスもまた昇進を遂げ、2020年にネットフリックスの共同CEOに就任した。その3年後、バジャリアが彼の後を継ぐ形でCCOに就いた。

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翻訳=上田裕資

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