産業AI実装を支えるインフラ。電力・冷却・エッジの制約を超える
他にも「ブースに行くことで初めて気づけた産業AI革命の旗手」と私が考える日本企業を紹介したいのだが、その前に、エヌビディアをはじめとする計算基盤が直面する制約にも触れておきたい。
ひとつは電力消費、もうひとつは冷却だ。GPU性能は向上する一方で、電力・配電・冷却インフラの制約に直結し、地域によってはAIの恩恵を受けられるかどうかが電力供給能力に左右される局面に入っている。ENEOSブースでデータセンターの油冷技術を紹介してくれたQuantum Meshの小林慎和博士によれば、最新世代の計算基盤は、設計や冷却方式を工夫しない限り、日本を含む多くの地域で電力・冷却の制約がボトルネックになり得るという。加えて、冷却に水を多用する方式は、地震等のリスク評価も含め、地域特性に合わせた設計が必要になる。産業AI革命/フィジカルAI時代は、データセンター、クラウド、エッジ、そして電力・冷却まで含めて実装可能性を設計するフェーズに入った、と言ってよい。
産業AI革命では、クラウド側の計算能力だけでなく、エッジ(デバイス側)で低遅延・高効率に動く設計が重要になる。なぜなら、自動運転や工場の異常検知といった現場では、ミリ秒単位の判断が求められ、クラウドとの通信を待つ余裕がないからだ。
村田製作所の展示は、この課題への一つの解を示していた。超音波の振動で水滴や汚れを除去する雨滴除去デバイスにより、自動運転車のカメラ映像を常時クリアに保つ。これにより、エッジ側のAIが正確な画像認識を継続でき、判断精度が向上する。Canon USAも同様に、CanonのSPAD技術とスタートアップUBICEPTのフォトン技術を組み合わせ、暗所でも精緻にナンバープレートを読み取れる技術を紹介していた。こうした「センサー品質の向上」は、エッジAIの判断を支える土台となり、データセンターへの過度な依存を減らす設計を後押しする。
技術選定に安全保障の視点を。小糸製作所が示すサプライチェーンリスク
小糸製作所も、Canon USA同様に暗所での検知・判定を支える、自動運転レベル3以降を見据えたLiDARセンサーを紹介していた。高精細な車のライティング(16000分割の高精細ADB)や、薄型フラットLED信号で省エネ・長寿命化を担うことで知られる小糸製作所だが、同社の小糸弘晃氏の話で印象的だったのは「性能だけでなく、どこの企業が作ったLiDARなのかを明確に捉える必要がある」という安全保障の視点である。米国では、(1)外国製LiDARの排除・フェーズアウトを志向する立法の動き(SAFE LiDAR Act)、(2)商務省BISによるコネクテッド車サプライチェーン規制、そして(3)NDAA 2021 §1260Hに基づき国防総省(通称ペンタゴン)が年次で公表する中国軍事企業(Chinese military companies)リストという三層で、技術採用が地政学・安全保障と直結し始めている。実際に同リストには中国系LiDARメーカーHesaiも掲載され、ペンタゴンがサプライチェーンに睨みを利かせる構図が、制度として機能し始めている。
日本では同等の規制の動きはまだ限定的だが、POCフェーズではクイック&安価に進める一方で、実装・採用段階では安全保障の観点からリスク評価を行い、日本独自の技術を組み合わせて採用を検討すべきだという指摘には、現在の地政学的不安を踏まえて大いに納得があった。地域の地形やインフラの精緻な把握が、どこへ渡り得るのか。技術を試す段階と、社会実装として採用する段階では、判断軸を切り替える必要がある。



