北米

2026.01.15 15:00

インサイダー疑惑に揺れる米「予測市場」、規制強化をめぐり議論勃発

Dilok Klaisataporn/Shutterstock.com

予測市場はニュースメディアと同様の情報機関であり、未公開情報を用いた取引を奨励

経済学者ロビン・ハンソンの考え方も、これに近い。彼は、予測市場についてニュースメディア、シンクタンク、コンサルティング会社と同様の「情報機関」と捉えている。つまり、情報を収集し、それを社会に伝える役割を担う存在だという考えだ。記者やアナリストを雇い、知見を集めて発信するこうした組織には、できる限り迅速かつ正確に情報を届ける責任がある。予測市場も本質的には同じだが、特定の社員や専門家に限らず、最も正確な情報を集めて提供した人であれば、誰でも報酬を得られる点が異なる。そのため、マドゥロ大統領の失脚に賭けた取引のように、未公開情報を用いた取引は、必要不可欠であるだけでなく、むしろ奨励されるべきだとハンソンは付け加えた。

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情報を漏らした側の行為を規制すべきで、利用者の匿名性は保護

ハンソンの見方では、この問題をめぐる法的対応も、他の情報機関と同じ枠組みで、「未公開情報の不正利用があったかどうか」という観点で判断すべきだという。たとえば、雇用主や第三者との法的な契約に違反して情報を記者に漏らせば、訴訟の対象になり得る。ハンソンがより重視するのは、マドゥロ失脚に賭けた謎のトレーダーがどのような経緯で情報を入手したのかであって、その情報をもとに賭博を行った事実そのものではない。「問題は市場を規制することではなく、情報を漏らした側の行為を規制することだ」とハンソンは語る(もっとも、内部情報をもとに賭博を行うことは、メディアの情報発信と同列ではない。賭けの段階では情報は公表されず、それが正しかったかどうかは、後になって結果が出てからしか分からないからだ)。

政府がPolymarketに対し、トレーダーの身元を明らかにするよう求める可能性はある。だがハンソンは、利用者の匿名性を、匿名の情報源を用いて報道する記者と重ね合わせて捉えている。記者による取材源の秘匿が法的に保護されるのと同様に、予測市場における匿名性も、情報流通を支える重要な前提だというのがハンソンの考えだ。

インサイダーは取引の性質そのものであり、市場全体の精度を高める

予測市場は、ニュースメディアとは明確に異なる側面を持つ。内部情報を持つインサイダーが、他のトレーダーの損失と引き換えに、突出した利益を得ることが可能だからだ。ただし、そうしたインサイダーに負けて損失を被った人々を、法的にどこまで保護できるのかは難しい問題でもある。法律事務所トラウトマン・ペッパー・ロックで規制調査を専門とする、スティーブン・パイプグラスはこう語る。

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「これは、こうした取引の性質そのものだ。市場に参加する以上、他の参加者の中に、自分より多くの情報を持つ人がいるかもしれないことは、誰もが理解している――あるいは理解しておくべきだ」。

むしろ、こうした市場をより効率的かつ正確なものにするために、より多くのインサイダーが必要だと考える人もいる。シンクタンクのケイトー研究所の政策アナリスト、アレックス・ノウラステは、「インサイダーが取引に参加できると分かっていれば、人々は自分の資金の投じ方や予測について、より慎重に判断するようになる。その結果、予測市場全体の精度が高まる」と指摘する。ただし、Polymarketは現在のところ、インサイダーが取引している可能性があることを、利用者に明示的に警告してはいない。

予測市場で金銭を投じる行為は表現の自由、マドゥロ失脚で稼いだ利用者は設計通りに仕組みを利用

ハンソンの主張は、さらに踏み込んだものだ。彼は、予測市場で自分の信念のもと金銭を投じる行為は、抗議デモと同様に、表現の自由として憲法上保護されるべきだと考えている。プラットホーム上の賭博は、文章やデモ行進では伝えきれない形で意思を表現できるからだ。「自分がどれほど強く信じているかは、間違えれば損をする覚悟を示してこそ伝わる」とハンソンは語る。

予測市場を人々が最も正確だと信じる情報にもとづいて意見や見解を自由に表明し、その対価として金銭的報酬が得られる「情報機関」として捉えるなら、マドゥロ大統領の追放を予測して40万ドル(約6300万円)を稼いだ利用者も、あくまで設計された通りにこの仕組みを使ったにすぎないことになる。

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翻訳=上田裕資

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