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2026.01.16 14:15

映画化されたデビュー作「万事快調」が公開、波木銅氏の伝える明日へのメッセージ

波木銅氏は大学在籍時に『万事快調(オール・グリーンズ)』で「松本清張賞」を受賞 (写真:文藝春秋)

波木銅氏は大学在籍時に『万事快調(オール・グリーンズ)』で「松本清張賞」を受賞 (写真:文藝春秋)

若者の多くが生きづらさを感じている。そんな話をしばしば耳にするようになった。本心を決して口にせず、人間関係が壊れるのをおそれて過激な言葉づかいは避ける。大学でも本音で友達と話さない学生が少なくない。

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筆者は大学生のころ、ラグビー仲間と互いの家に土足で入り込むような付き合い方をしていた。それだけに、隔世の感も覚える。
 
「現代において“生きづらさ“は普遍的なもの」そう語るのは、作家の波木銅(なみき・どう)氏だ。同氏は若年世代が抱く感情の機微の繊細な描写を売りにした小説を書き続ける。実は筆者の勤務する大学のコースに身を置いていた卒業生の1人だ。
 
波木氏は1999年茨城県生まれ、大学在籍時の2021年に『万事快調(オール・グリーンズ)』という長編小説で、「松本清張賞」を受賞した。同賞は1993年に創設されたもので、「ジャンルを問わない広義のエンターテインメント小説」が対象。受賞者には『クライマーズ・ハイ』『64(ロクヨン)』などの作品で知られる人気作家の横山秀夫氏も名を連ねる。

波木氏は現役学生として2人目の受賞という快挙を達成。大学の正門横には当時、祝福の横断幕が掲げられた。
 
『万事快調』は茨城県東海村の「偏差値低め」(※本文から抜粋)の工業高校に在籍する3人の女子生徒が一攫千金を狙い、園芸同好会の活動と称して学校の屋上で大麻の栽培を行うという奇想天外なストーリーだ。非合法な行為に手を染めてしまう裏には、直面する閉塞感を打破したいとの思いがある。
 
東海村といえば、原子力関連施設の集積で知られる地だ。あえて、小説の舞台に設定したのは波木氏のこだわりに由来する。

「低い位置にいる者がなんらかの手段で上を目指すという設定において、ある種の不条理や理不尽の象徴として原発を置き、ストーリーを組み立てることに意味があった」
 
作品は「空気を読む」ことに神経を使う主人公の朴秀実と岩隈真子の会話から始まる。のちに大麻栽培を共にすることになる矢口美流紅が朴の机に腰かけて5人の男子生徒と談笑しているため、朴が席に戻れないことを岩隈にぼやく。

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朴は岩隈に「いま私が堂々と自分の席に戻ったらどうなるかな」などと言葉を投げかける。これに対して岩隈は「一瞬まずい空気が流れて、お前はあっ、ごめんね、って苦笑いされる」などと答える。

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文=松崎泰弘

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