ヒップホップは内面をさらけ出すのが格好いい
昨年12月には新作『順風満帆(クラウド・ナイン)』を上梓した。『万事快調』のスピンオフである表題作のほか、4つの短編が収められている。全編に共通しているのは、「何かに対する愛情や強い思いなどを持つことに加え、内面と外面を使い分けることに関するストーリー」(波木氏)である。
『万事快調』と『順風満帆』のいずれにも描かれているのがラップバトルやMCバトルのシーンだ。
「代表的な若者のカルチャーとして非常に奥深い」と語る波木氏も学生時代にはしばしばクラブへ足を運び、イベントなどに参加していた。バトルの起源とされるヒップホップは「おカネの有無や立場などに関係なく始められる間口の広さがあり、そこからしか生まれない表現や感情がある」と語る。
波木氏は「本音を言うことがよしとされ、内面をさらけ出すことが格好いい、という側面がヒップホップにはある」とも話す。用意した言葉を口にするのではなく、リズムなども考えながら即興で対応しなければならないのがバトルの世界。そこには対戦相手の感情を「察する」余裕などないのかもしれない。
『順風満帆』では主人公の教育実習中の学生がMCバトルのイベントに参加。授業準備などに忙殺される学生が、実習先の中学のクラスに在籍する生徒と対戦する。
「混沌としたヒップホップの世界と秩序めいているように見える教師や公務員の世界を行き来するという構造がおもしろい」(波木氏)
波木氏の強みの1つがサブカル関連の知識の豊富さだ。『順風満帆』にもサブカル関連のネタがいたるところに散りばめられている。映画『ロッキー』に登場する愛妻のエイドリアンの記述があることには、「本当に平成生まれなのか」と驚かされる。高校時代は「自宅の近所に映画館がなく、『TSUTAYA』で頻繁にビデオを借りていた」と波木氏は言う。
映画化された『万事快調』が1月16日公開
「若者が本心を覆い、言葉を選ぶのは、失敗を恐れていることが根底にある」と指摘する波木氏。「新作を通じて伝いたいメッセージは?」との問いに、「よほどのことがなければ、人生はどうにでもなるということ」「多少失敗しても、次があるという気分で臨めばという思いは常に抱いている」と答える。
『万事快調』は映画化され、南沙良さんと出口夏希さんのダブル主演で1月16日から公開される予定だ。「ビジュアル、ロケーション、演技面など細部までつくり込んでいて、原作小説の持ち味を生かして映像にするうえで効果的な見せ方をしてくれている」(波木氏)という。
筆者の質問に対してじっくりと考え、丁寧に答える波木氏。本質は学生時代と変わらないという印象を受けた。就職活動をせず、あえて困難な道を選択した同氏。「これまでと毛色の変わった、新たなテーマの作品にも挑戦したい気持ちはある」などと意欲的だ。いまのところ、彼の作家人生も「万事快調」のように見える。
連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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