デザインやクリエイティブを経営の新しい力にしながら、これまでの領域を超えた施策や思考を推し進めるファミリーマートとコクヨ。
企業経営とデザイン融合の可能性、そしてビジネスの視点でデザイン・クリエイティブに期待することとは?
社会や経済の未来をアートの視点を通じて考える都市型イベント「FUTURE VISION SUMMIT 2025」が2025年12月に東京・丸の内で開催された。そのなかでファミリーマートとコクヨのトップを迎え、企業活動とデザインの関係についてのトークセッションが行われた。クリエイティブディレクターであり東京大学先端科学技術研究センターの特任准教授でもある吉本英樹(写真左。以下、吉本)が、2社の取り組みを探った。
「デザインとビジネスは不可分である」
数字を追うビジネスと、絵やデザインといった定量化できないものをつくり出すクリエイティブはなかなか相いれないと思われてきた。その垣根を越え、ビジネス戦略とクリエイティブの融合を実践しているのがファミリーマートだ。その象徴として話題になったのが21年3月から展開している「コンビニエンスウェア」シリーズ。店内でカラフルなデザインの美しいソックスやハンカチを目にした人も多いだろう。デザインを統括するクリエイティブディレクターには、ファッションデザイナーである「FACETASM」の落合宏理を起用している。さらに25年には世界的に活躍するデザイナーのNIGO®をファミリーマートの次世代店舗や戦略商品等のクリエイティブディレクターに迎え、クリエイターを積極的に経営の近くに配してきた。ファミリーマート代表取締役社長 細見研介(写真右。以下、細見)は、こうした戦略の意味を次のように説明する。
「日本には約6万店舗ほどのコンビニがあり、今や日本のインフラ。コンビニ業態の同質化も進み、立地の良さや商品のおいしさだけでは差別化が難しくなっています。そこで大切になってくるのが、店舗にのせるコンテンツです。そこにクリエイターの力が必要になってくると考えています」
ファミリーマートは国内に約1万6,400店舗、海外に約8,600店舗があり、国内だけで1日に約1,800万人が来店する。そのリアルな人の流れに対して、店内のデジタルサイネージを利用したオウンドメディアでの発信やアプリ会員の取り込みもダイナミックに展開している。同時に、店に入ったときのワクワク感の創出や、リアルなヒューマンタッチの感覚とデジタルとのバランスといった仕掛けも重視し、そこではデザインやクリエイティブをからめて模索をしているという。
こうしたクリエイティブへの投資に挑戦する経営者はまだまだ少ない。社長である細見がなぜここまで積極的になれるのか。吉本の疑問に細見は自身の経験を語った。
「若いころ、海外の美術館で絵画を見ていたとき、絵は『物質としてはただの紙と絵の具』だけど、そこに何を込めるかで数十億円もの価値を生み出していると気づき、アートはすごいと思ったのです。1960年代にアンディ・ウォーホルがシルクスクリーンで作品を大量生産し、デザインとビジネスの隙間を縮めました。ビジネスは常に最大公約数を追いかけ、マスを志向しなければビジネスになりません。ですが、美は常に先端をいきながらマスはあとからついていく。デザインとビジネスは同床異夢な関係ですが、接点を見つけながらマスを引っ張っていくことで新しい価値が生み出せる。デザインとビジネスは不可分だと考えています」
クリエイティブで事業をアップデートする
同じく、デザインやクリエイティブの力を経営に取り込もうとしているのがコクヨだ。同社は25年に創業120周年を迎えリブランディングを行ったばかり。紙製品から文具、オフィス家具へと変貌を遂げてきたコクヨの歴史を振り返り、「好奇心」をキーワードにこれからの事業展開を見据える。ファミリーマートとは24年に「コンビニエンスウェア」の文具ラインを共同開発し、話題になった。コクヨ代表執行役社長の黒田英邦(写真中央。以下、黒田)は、コクヨにおけるクリエイティブの重要性を次のように語る。
「創業以来コクヨは常にお客様のニーズの掘り下げに取り組み、自らのプロダクトやサービスをピボットしてきました。お客様の新しいニーズを我々は“未充足ニーズ”と呼んでいるのですが、それを考え、前例のないこと、答えの見えないことを解いていくことが、まさしくクリエイティブであると考えています。そこではデザイン言語である“観察”や“実験”、そして“プロトタイピング”といったアプローチも必要になります。オフィス家具は単なる家具ではなく、働き方を提案するものと位置付けるなど、クリエイティブな考え方が事業をアップデートさせる力になると考えています」
新しいことを始めるのはとりわけメーカーにとってはリスクが高いことがある、と黒田は語りつつも、だからこそ不確定なことをかたちにしていくクリエイティブの力に期待を寄せる。黒田自身も企業ビジネスにおけるクリエイティブやデザインの重要性を体感する出来事があったという。08年のリーマンショックのころだ。
「当時オフィス家具へのニーズが激減し、社内に抱えているデザイナーの仕事を得るためにホテル事業へと参入して京都のオフィスビルをデザインホテルにリフォームするプロジェクトにかかわりました。オフィスづくりでは生産性を重視していましたが、デザインによってお客様に特別な体験をつくり、それが収益を生むということを学びました。それはまさしく“デザインには人の行動を変える力がある”ということであり、デザインに対する考え方が変わった出来事でした」
企業がデザイナーに期待すること
こうした企業の挑戦は、ビジネスとデザイン・クリエイティブの関係をさらに発展させる好事例となるのではないだろうか。吉本は最後に「企業としてデザイナーに期待すること、デザインの次の役割とは?」という質問を投げかけた。
細見は、自分の直感を信じて自信をもって考えを提案してほしい、と語る。
「経営者は目の前のことばかり見ていますが、クリエイターは時代の先端を感じることができる。そのために世界を見て回り、過去の人間がどのように時代の先端を走っていたのかを知り、今の時代の先端とは何かを考えてほしい。企業経営者はそういった考えを取り入れていきたいと思っていますから」
黒田は、これからのプロダクトに求められる「一貫性のある顧客体験づくり」に貢献してもらいたいと期待を寄せた。
「新しい商品やサービスをお客様に受け入れてもらうためには、その商品を買ったあとにお客様にどのようなベネフィットがあるのかを感じてもらうことが大切。プロダクトデザイナーだけでなく、広告や売り方まで多面的な体験をさまざまなクリエイターとつながってつくっていくことが大切になっています。ビジネスに対して360度で取り組み、一貫性をもった体験づくり、そしてそれを広げていくところにデザイン・クリエイティブがもっと活躍すると思っています」
企業経営とデザイン・クリエイティブ融合の可能性はまだまだこれから花開いていきそうだ。
ファミリーマート
https://www.family.co.jp/
ほそみ・けんすけ(写真右)◎ファミリーマート代表取締役社長。伊藤忠商事執行役員、第8カンパニープレジデントなどを経て、2021年より現職。
くろだ・ひでくに(写真中央)◎コクヨ代表執行役社長。コクヨファニチャー社長、コクヨ専務などを経て、2015年より代表取締役社長。2024年より現職。
よしもと・ひでき(写真左)◎デザイナー、クリエイティブディレクター、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。TANGENT創業者。



