サイエンス

2026.01.16 18:00

極限環境の「悪魔の穴」に棲む、世界一希少な魚「デビルズホールパプフィッシュ」

デビルズホールパプフィッシュ(Olin Feuerbacher / USFWS)

デビルズホールパプフィッシュ(Olin Feuerbacher / USFWS)

進化は、ドラマチックな筋書きを好む。その好例が、デビルズホールパプフィッシュ(学名:Cyprinodon diabolis)だ。この魚は、ありえないくらい特殊化していて、生物学者たちはその生態に目を見張ると同時に、その将来を憂慮している。

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デビルズホールパプフィッシュは、人の親指ほどの小さな魚でありながら、信じられないような場所で生き抜く術を見いだした。そこは一見したところ、どんな脊椎動物もすみかとして選ぶはずがないと思うような環境だ。

彼らは、米ネバダ州、モハベ砂漠のど真ん中にある、石灰岩の狭い亀裂の中に暮らしている。「デビルズホール」と呼ばれるこの亀裂は、水をたたえてはいるものの、日差しと地熱のため水温は風呂並みで、溶存酸素はほとんどない。

にもかかわらず、この種はどうにか生き抜いてきた。以下では、デビルズホールパプフィッシュがどれほど絶え間なく絶滅の瀬戸際をさまよってきたかを学び、生存競争と遺伝学、そして地球上の生命の限界について彼らが語る不可解な真実に耳を傾けよう。

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「悪魔の穴」の魚:その生態と発見

デビルズホールパプフィッシュは、地球上で最も自然分布域が狭い脊椎動物の1つであり、しばしば「世界一希少な魚」と呼ばれる。彼らにとっては、水没した1つの岩棚が世界のすべてであり、面積は小さめの寝室ほどしかない。この岩棚の水たまりは洞窟につながっていて、その闇に包まれた深淵は、研究者たちもまだ十分に探索できていない。

この種が、最初に学術的に記録されたのは1930年のことだ。生物学者たちは、この砂漠の裂け目に暮らす青く輝く魚が、近くにある「アッシュメドウズの泉」に生息する近縁のパプフィッシュとは別種であることを明らかにした。しかし当時でさえ、この極限的な生息環境では、安定した個体群を維持することはできないと考えられていた。

学術誌『Geochimica et Cosmochimica Acta』に掲載された論文で述べられているように、デビルズホールは、地熱で温められた地下水をたたえる高温・低酸素環境だ。日照や、藻類の成長、水深がわずかに変動しただけで、パプフィッシュの個体群は全滅しかねない。そう考えると、科学者でなくても、ここで魚が生きつづけていることがいかに驚異的であるかがよくわかる。

けれども、デビルズホールに暮らすパプフィッシュの日常生活は驚くほど規則的だ。浅瀬の岩棚の表面にできる藻類の層を食べ、毎日数時間だけクレバスに射し込む日差しの中を勢いよく泳ぎ回っている。

興味深いことに、彼らの繁殖サイクルは、この日光とゆるやかに結びついている。パプフィッシュは岩棚の上に産卵し、孵化した稚魚は深みに隠れるが、多くはそのまま戻ってこない。パプフィッシュにとっての「当たり年」には、藻類がよく茂って、個体数が増加する。逆に厳しい年には、個体数が40匹を切ることもある。進化的な文脈で考えるなら、40匹未満というのは、1つの種の歴史が丸ごと、たった1つの不運な出来事によって消し去られかねない数字だ。

2014年に学術誌『PeerJ』に掲載された、デビルズホールパプフィッシュの包括的なリスク分析においても、こうした脆弱性が強調されている。論文著者たちは、個体群の動態モデルを構築し、野生個体群を損なうことなく、パプフィッシュを捕獲して飼育下繁殖に回すとしたら、何匹までなら安全であるかを検討した。

論文の結論は、厳しい現実を突きつけるものだった。種そのものの存続が、わずか数十個体の繁殖成功にかかっているときには、1つの嵐や地震、日照のわずかな減少、繁殖サイクルのちょっとした不順が、実存上の危機になり得るのだ。

だが、これほど絶望的な確率でありながら、デビルズホールパプフィッシュの個体群は、ありえないほど長いあいだ存続してきた。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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