サイエンス

2026.01.16 18:00

極限環境の「悪魔の穴」に棲む、世界一希少な魚「デビルズホールパプフィッシュ」

デビルズホールパプフィッシュ(Olin Feuerbacher / USFWS)

デビルズホールパプフィッシュはなぜ重要なのか

2022年に学術誌『Proceedings of the Royal Society B(英国王立協会紀要B)』に掲載された論文では、デビルズホールパプフィッシュのゲノム分析が行われた。この研究により、意外ではないが、この種がこれまでに分析された脊椎動物の中で、最も近親交配が進んだ種の1つであることが明らかになった。

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具体的にいうと、デビルズホールパプフィッシュのゲノムの58%以上が、長いホモ接合性領域(runs of homozygosity:ROH)の中に存在していた。簡単に言えばこの結果は、パプフィッシュが多くの近親交配を重ねてきたことを強く示唆する。さらに、機能的遺伝子の多くに、配列の欠失、短縮、有害変異の蓄積の兆候が確認された。 

従来の保全遺伝学の観点からは、こうした特徴は悲劇の前触れだ。これほど遺伝的多様性が減少した状態は通常、絶滅への片道切符を意味する。にもかかわらず、なぜかパプフィッシュは生存し続けている。

この矛盾、つまり、深刻な遺伝的制約がありながら、驚くほどしぶとく生き延びていることこそ、デビルズホールパプフィッシュが科学的に極めて重要である理由だ。彼らは、進化生物学における確立された定説の数々、なかでも遺伝的多様性、適応度、環境の安定性の関係に疑問を投げかける存在なのだ。

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デビルズホールパプフィッシュはすでに、小さな個体群が、(少なくとも理論的には)持続不可能であるはずの有害変異の蓄積に耐えて存続する場合があることを示すケーススタディとなっている。ある意味でこの種は、「適応」という言葉が実際には何を意味するのかについて、研究者たちに再考を迫っている。

・パプフィッシュは、極端な高温と低酸素への耐性を進化させたのか?
・もとから耐性を持ち合わせていた個体だけが、長期的に生き延び、系統を存続させたのか?
・逆説的嫌気呼吸は、適応なのか、遺伝的な偶然の賜物なのか、それとも、遺伝子の欠損に対処する代謝面での次善策なのか?

これまでに得られた知見はみな、この魚を理解するには、たった1つのレンズを通して眺めるだけでは不十分であることを示している。デビルズホールパプフィッシュは間違いなく、生物学におけるパラドックスの1つだ。私たちが教科書で学んできたような、すっきりした枠組みに収まることを良しとしないものなのだ。

forbes.com 原文

翻訳=的場知之/ガリレオ

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