「悪魔の穴」でのサバイバル
デビルズホールの水温は恐ろしく高い。年間を通じて摂氏33~34度を保っており、ほぼ温水ジャグジー並みだ。ほとんどの魚にとってこの温度は、代謝を維持できる温度帯の上限ギリギリだ。
しかも、それだけでは生ぬるいとでも言わんばかりに、水中の溶存酸素量も著しく少ない。デビルズホールに潜った経験のあるダイバーに言わせれば、「ほとんど空気がない中を泳いでいるようなもの」だ。
それなら、なぜパプフィッシュは酸欠に陥らずに生きていられるのだろう? 答えは、2015年に学術誌『Journal of Experimental Biology』に掲載された論文で明らかになった。この研究で生物学者たちは、それまで魚類では一切知られていなかった現象を発見し、「逆説的嫌気呼吸(paradoxical anaerobism)」と名づけた。
これは簡単に言えば、パプフィッシュが時に(また、おそらく直接的な環境中の手がかりに頼らずに)、突如として酸素消費を、測定不可能なレベルまでシャットダウンすることを意味する。奇妙なことに、彼らはまだ水中の溶存酸素をある程度利用できるうちに、この状態に切り替わる。言い換えれば、酸欠に陥る代わりに、一時的に酸素消費量がゼロになるような代謝状態に体を切り替え、この嫌気性代謝回路によって生命を維持するのだ。
ほとんどの脊椎動物は、酸素が乏しい環境では、活動量を低下させるか、呼吸数を増加させる。そして、そうしなければ細胞損傷のリスクを負う。しかしパプフィッシュはどうやら、一時的に酸素ベースの代謝を完全に停止する能力を備えているようだ。
前述した2015年の論文の著者たちは、これは防御メカニズムであり、ミトコンドリア回路に高温や低酸素による負荷がかかることで、有害な代謝副産物が蓄積することを回避している可能性があるとしている。
パプフィッシュが経験する、あらゆる生態学的プレッシャー──極端な高温、低酸素、限られたスペース──を考慮すれば、彼らはただ過酷な環境に耐えられるだけでなく、こうした環境に適した形に代謝機能を再構築したという筋書きが浮かび上がる。
デビルズホールパプフィッシュは、脊椎動物が生理的に対処できるギリギリの環境で生き続けてきた。彼らが持つ、代謝のモードを切り替える能力は、多くの砂漠性の種でさえ生息していない環境で彼らが生き延びることができた、決定的な理由の1つなのかもしれない。


