米国フロリダ州タンパで、「経済的自由」を謳い文句にした不動産投資会社、RADダイバーシファイドが経営破綻を迎えようとしている。約1億ドル(約156億円。1ドル=156円換算)もの資産が行方不明となっていることが発覚したのだ。
背景にあるのは、2012年に制定された米国の「JOBS法」だ。新興企業の資金調達を支援するために規制を緩和したこの法律は、情報開示が不十分なまま、企業が一般個人から資金を集めることをも可能にした。RADダイバーシファイドはこの制度の隙を突き、セミナーやネット広告で「4年で150%」といった非現実的な高利回りを宣伝して急成長を遂げた。
しかし、その実態は新規の投資資金を既存客への配当に回す、自転車操業的な「ポンジ・スキーム」(投資詐欺)だった疑いが強まっている。配当は停止し、約束された利益どころか元本さえ戻らない恐れがある。現在、米証券取引委員会(SEC)とフロリダ州当局による厳しい捜査が進められている。本稿では、法の抜け穴と人々の射幸心につけ込んだ投資詐欺について解説する。
高利回りをうたう不動産投資会社RADダイバーシファイド、元軍人が見たその実態
2023年1月、ブラッド・カーは、27年間にわたる米陸軍での勤務を終えて退役した直後に、不動産投資会社RADダイバーシファイドに入社した。カーは、ノースカロライナ州フェイエットビルのフォート・ブラッグや、フロリダ州タンパにある米特殊作戦軍司令部で勤務していた。
「戦略イニシアチブ担当ディレクター」として採用されたカーは、自身が事実上の戦略責任者を務めていたと語る。陸軍士官学校ウェストポイントを卒業した51歳のカーは、軍歴の大半を憲兵隊で過ごした後、情報やプロパガンダを用いて現地住民に影響を与え、軍事目的の達成を図る「PSYOP(心理作戦部隊)」に所属していた。
カーが入社した時点で、RADはすでに対面セミナーやデジタルマーケティングを駆使し、数百人の投資家に対して多様な投資商品を提供していた。中核商品は非上場の不動産投資信託(REIT)で、ロサンゼルス、ヒューストン、フィラデルフィア、タンパの一戸建て住宅を取得しているとうたっていた。
しかしRADはまた、経済的に困窮した地域の不動産投資に税制優遇が与えられるオポチュニティ・ゾーン・ファンドや、主にNFTに投資する暗号資産ファンド、そして不動産の共同事業に参加できる「インナー・サークルRAD」と呼ばれる会員制投資クラブも運営していると説明していた。このクラブへの参加費は5万ドル(約780万円)だった。RADはエクイティ投資にとどまらず、貸付投資の機会も提供し、貸し手には年率10%超の利回りを提示していた。こうした事業全体を通じて、同社は自社の不動産ポートフォリオの規模が2億5000万ドル(約390億円)に達していると宣伝していた。
CEOからの奇妙な指示、史上最大の投資詐欺を仕掛けたマドフを調査せよ
入社から2週間後、カーのもとに、RADのブランドン・ダッチ・メンデンホールCEOから意外な指示が届いた(カーはフォーブスからの執拗な取材要請に、しぶしぶ応じた)。指示内容は、史上最大のポンジ・スキーム(投資詐欺)を仕掛けた人物、バーナード・マドフがどのようにして摘発されたのかを調べることだった。ちょうどその頃、マドフの事件を追ったネットフリックスのドキュメンタリー『マドフ:ウォール街の詐欺師』が公開されたばかりだったため、カーはその奇妙な依頼に疑問を抱くことなく応じ、シリーズを視聴し経営陣向けのプレゼン資料を作成した。
カーの考えでは、詐欺師マドフが長年摘発を免れてきたのは、取引の詳細を意図的に見えないところに隠していたことに加え、周囲の誰もが「魔法のような高リターン」を失うのを恐れ、疑問を投げかけようとしなかったためだった。
運用実績を裏付けるはずのデータが提示されるたびに内容が変わり、各部門の数字も整合しない
その後まもなく、カーはCEOから新たな任務を与えられた。事業の成長計画を策定し、ファミリーオフィスの投資家候補向け資料を準備するというものだ。この任務で不可欠だったのが、RADが投資家に向けてうたっていた「4年間で150%のリターン」という主張を裏付けるデータだった。
一方、運用資産が640億ドル(約10兆円)規模のバンガード不動産インデックス・ファンドの2019年から4年間の上昇率は18%だった。ところが、当時のRADの最高財務責任者(CFO)アンドリュー・ノニスからカーに渡された数値は、提示されるたびに内容が変わった。事業の各部門の数字も整合していなかった。2023年6月、RADに入社してから6カ月が経過した時点で、カーは自身が求められる仕事を果たせないと判断し、退社を決めた。



