マドゥロ政権と手を結ぶコロンビア系武装組織ELNの存在
たとえ米国が軍事力でマドゥロ政権を打倒できたとしても、ベネズエラには、その後の権力の空白を埋め、移行期に混乱を引き起こせそうな武装勢力が数多く存在する。これらの勢力は犯罪ネットワークを活用でき、とりわけコロンビアを起源とするゲリラはよく組織されており、戦闘経験も豊富だ。
最大の課題のひとつになるとみられるのは、1960年代にコロンビアで結成され、現在はマドゥロ政権と全面的な協力関係にある武装組織「民族解放軍(ELN)」だ。ELNは戦闘員約5800人を擁し、ベネズエラと国境を接するカタトゥンボ地域を含む重要な麻薬生産地を支配している。ELNが勧誘しているのはコロンビア人だけではない。報道によると、カタトゥンボ地域ではELN戦闘員の約4割がベネズエラ国籍だという。
ベネズエラでの体制転換の試みを複雑にする要因は、ELNの存続とマドゥロ政権の存続が互いに絡み合っていることだ。マドゥロは、違法な金採掘や密貿易、麻薬取引による利益の分け前を得る見返りに、ELNが国境地域やその他の地域で領域的・社会的・政治的な支配権を行使することを容認してきた。カタトゥンボ地域だけでも麻薬取引による収入は年間6億ドル(約940億円)に達すると報告されており、これはELNを支えるのに十分な額である。ELNは、マドゥロ政権が政府や軍の高官たちの忠誠を維持するのに必要な犯罪収益にあずかれるようにしているほか、コロンビアによる侵略に対する防壁の役割も果たしている。
ELNはベネズエラ全土でマドゥロ政権を防衛すると誓っている。ベネズエラの地形は、総じて国家主体よりもELNのようなゲリラに有利だ。ELNは現地の状況に関する知識に加え、即席爆発装置(IED)の使用にも精通しており、近年はドローン(無人機)の運用能力も獲得している。
ELNはベネズエラ軍と直接連携しており、2022年には左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」の分派勢力を合同で攻撃した。ELNはコロンビア国内でも作戦を継続しているが、指揮官たちはマドゥロの支援を受けてベネズエラ国内に潜伏している。
地域への影響
もうひとつ懸念されるのは、米国がベネズエラに侵攻した場合、隣のコロンビアで何が起こるかという点だ。2016年にコロンビア政府とFARCの間で結ばれた和平合意は非常に脆く、数千人のFARC戦闘員は合意の受け入れを拒んだ。彼らはFARCの分派勢力としてマドゥロ政権の庇護下で活動しており、紛争が勃発すれば再び戦闘に加わる可能性がある。
域内の大国であるブラジルの指導部は、ベネズエラの混乱は南米をベトナム戦争型の「交戦地帯」にしかねないと警告している。米国がベネズエラに侵攻すれば、長期にわたる低強度紛争が続く条件が十分に揃っており、そうした紛争は地域全体を著しく不安定化させることになるだろう。


